アップルの開発者会議WWDCが、今年も6月8日からの5日間、米サンフランシスコで開かれました。この会議の狙いは、開発者に新しい技術の方向性を示すことです。アップルは主要新製品を秋に発表しており、開発者はWWDC後、それに向けて開発の準備をすることができるのです。
会場には今年の会議の3つの柱として「iOS」、「OS X」、「watchOS」の3つのOSディスプレイが飾られました。
まずマック用OSの「OS X」の新バージョンですが、これには「エル・カピタン」(ヨセミテ国立公園の中の巨大岩)という愛称が付けられています。ちょっと面白い名前ですが、現在最新のOS X の愛称が「ヨセミテ」ですから、その中にある岩ということで、このバージョンにはあまり大きな改革は加えられていないという含みもあるのでしょう。
改革の一つは「自然文検索」です。「エル・カピタン」では、これまでの「キーワード」ベースの検索だけでなく、“サンフランシスコで撮影した写真”のようなフレーズ検索をすることができます。しっかり稼働してくれれば、かなり便利になりますね。
出典:http://www.digitaltrends.com/mobile/best-of-wwdc-2015-explained/
もう一つの改革点は、2つのアプリを並べて1画面に表示できる「Split View」です。これは、“ながら作業”を可能にしてくれますが、同じような機能はすでにウィンドウズ8以降にも搭載されているため、独自性があるとは言えません。「Split View」はiPadにも導入されます。
また「Metal」という技術ではレスポンスの向上を図り、アプリの起動が1.4倍、切り替えが2倍高速化するそうです。
次にiPhone・iPad向けOSの「iOS」です。現在iOSでは音声入力「Siri」を使って自然文的な検索が行われています。新バージョンのiOS9ではこれに写真の検索も加わります。つまり“サンフランシスコで撮影した写真”の写真検索もできるわけです。
また「積極的なアシスタントをする」という観点から、受信メールを分析してアドレス帳への転記を促したり、入力されたスケジュールと交通状態を分析して「〇時に家を出ないと、渋滞に巻き込まれる」と指示を出したりします。このようなSiriの性能の向上化で、スマホはユーザーのよりすぐれたアシスタントになりつつあります。
これらのSiri機能の向上はグーグルの「Google Now」にも似ています。最近アップルとグーグルのライバル化が取りざたされていますが、アップルはSiriの性能を向上させたことで、Google Nowに大きく差をつけようとしているのがわかります。この賢くなったSiriではAPI検索も可能です。Siriが様々なアプリから情報を取得してくるのですが、発表したクレイグ・フェデリギ氏は、アシスタントが利用するデータは端末だけで、クラウドにはあがらないことを強調しています。情報については誰でも敏感にならざるをえないので、これは的を射た発言でしょう。
このようにOS X とiOSの新機能には、共通項が増えてきているのがわかります。
出典:http://www.digitaltrends.com/mobile/best-of-wwdc-2015-explained/
第3の柱の「watchOS」ですが、これはもちろんApple Watch用のOSです。これまでのApple Watchでは、アプリは連携するiPhone側で動いており、情報更新に時間がかかるなどの難点がありました。新OSの「watchOS 2」では、iPhoneを必要としないネイティブアプリを開発することができます。カスタマイズがより柔軟になったウォッチフェイス「Timepiece」、充電の際に横表示にする機能、「Digital Touch」で複数色の使用が可能になったこと、Siriでの道案内機能なども併せて紹介されました。
watchOS 2の発表の直前に、CEOのティム・クック氏が「App Storeからのアプリダウンロード数の累計が1000億本を超え、開発者への売上還元額は300億ドル以上、登録アプリ数は約150万本になった」という情報を公開しています。このタイミングは「次のヒットはApple Watch にある」ことを強調するためです。Apple Watchの中でアプリが動くようになり、ハードの特性をフル活用できるようになることは、iPhone登場の翌年にApp Storeができたのにも匹敵する、という主張なのです。
出典:http://www.digitaltrends.com/mobile/best-of-wwdc-2015-explained/
3本柱の説明が終わったところで、スティーブ・ジョッブス時代から恒例の“One more thing…(あともう一つ…)”という導入句で紹介されたのが、新音楽サービスの「Apple Music」です。海外の多くのメディアはこれを中心に報道しました。
これは6月30日から世界の100カ国以上で始まる、定額制音楽配信サービスです。日本で同日からサービスが開始されるかどうかは未発表ですが、関係者によるとその可能性は高いようです。最初の3か月間は無料、その後は月額約10ドルで、数千万のラインアップから追加料金なしで、音楽を聴き放題。音質や配信スピード以外のセールスポイントとしては、視聴者の好みの曲を推薦してくれる「レコメンド」があります。似た曲のプレイリストが作られ、再生すれば好きな曲ばかりを聞くことができます。
アップルは、音楽ストリーミング市場への参入に乗り遅れた感がありましたが、Androidにもサービスを対応させることで、最大限のユーザーの獲得を目指していることがわかります。まだストリーミングビジネスの定着していない日本では、今後、他の音楽サービスとともに普及競争が起こりそうです。
出典:http://www.digitaltrends.com/mobile/best-of-wwdc-2015-explained/
Androidとの競争と言えば、「Move to iOS」。このアプリを使うと、電話帳、メッセージ履歴、写真、動画、ブックマーク、Eメール、カレンダーなどが、簡単にiOSへ移行できてしまいます。リリースは秋の予定ですので、それまでにAndroid側がどのような対抗策に出るか、興味深いところです。
その他にも、モバイル端末では最高の読み心地と謳われる「Apple News」もあります。無料でニューヨーク・タイムズ紙の記事も読めてしまうそうで、これでニュース系アプリはすべて不要になるのでしょうか。
今回の発表で色々魅力的なアップデートがありましたが、これらを踏まえて開発者がどのように開発に取り組んでいくのか、ユーザーにとっても楽しみなところです。