経営者が生命保険に入るべき理由

経営者が法人で生命保険に加入することは節税対策としてメジャーな方法です。しかし、起業したばかりの方は生命保険の本当のメリットをまだあまり理解していないかもしれません。今回は、経営者が生命保険を利用するうえでの注意点を解説します。

節税対策としての生命保険

会社の節税対策として、経営者や従業員を被保険者、会社を契約者として加入する生命保険のことを「法人保険」と言います。法人保険は節税対策として有名ですが、実は節税対策としてのメリットは大きくなく、その他の活用方法の方がメリットが大きいです。まずは節税について解説します。

法人保険に加入すると、保険料を経費(損金)に計上することができます。そのため保険料分を控除して節税ができるのですが、解約して返戻金を受け取るときに返戻金には課税されてしまいます。保険料全額が控除される保険を例に、以下のケースでシミュレーションしてみましょう。

【毎年の保険料】20万円
【保険料払込期間】10年
【返戻金】200万円(返戻率100%)
【法人税】40%

返戻率が100%ですので支払った保険料の総額=返戻金=200万円です。この場合保険料払込時には毎年20万円のうち40%、10年間で80万円の法人税が節税できるのですが、解約して返戻金を受け取るときに40%課税されるため、結果的にプラスマイナスゼロ、となってしまうのです。つまり厳密には、法人保険の役割は節税ではなく課税の繰り延べということになります。

ここまで読んだ方は節税効果がないなら加入する意味がないじゃないか!と思うかもしれません。しかし実際には、ある条件の中で利用すれば節税効果を享受することができるのです。

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法人保険の出口戦略

1. 退職金の積み立てに利用する

経営者の方で数年後に退職する予定だ、もしくは数年後に従業員の数人が定年になる、という場合は法人保険を使って退職金を積み立てることで節税効果が享受できます。つまりその年に法人保険を解約して返戻金を得て、全額退職金として支払ってしまえば、税金は実質かからないということです。返戻金(益金)と退職金(損金)を相殺できるのです。これならば保険料の節税メリットだけを享受できます。退職金として受け取れば、所得税も役員報酬などの形で受け取るよりもずっと節税できます。

2. 定期的な投資資金としての利用

同じように一定期間ごとに大規模な支出があることが決まっている(店舗改装や物件の修繕など)場合は、支払われた返戻金と投資資金を相殺することで、法人税の課税を回避することができます。

3. 赤字の穴埋め

業績の悪化によって会社の赤字が大きく膨らんでしまった場合、法人保険を解約して赤字を穴埋めすることができます。返戻金を使っても赤字の場合は、法人税は課税されません。ただ保険の返戻金は時期によって高低がありますので、複数の保険に加入して返戻金のピークをずらしておくといいでしょう。

4. 法人税が下落した場合

現在の日本は世界標準に合わせて法人税の引き下げ政策を実行しています。平成27年度の法人実効税率はマイナス2.51%、平成28年度にはマイナス3.29%になる見込みです。これ以降も法人税が引き下げられる可能性はあります。そうなると引き下げ以前に支払った保険料は、引き下げ以後に返戻金として受け取るときに、相対的に低い法人税分しか課税されませんので、数%分だけですが、納税額が安くなります。ただこれは社会的な動きですので、財務戦略に繰り入れることは避けた方がいいかもしれません。

まとめると、返戻金を受け取る期を赤字にする、逆に言えば「赤字になる予定の期に返戻金を受け取るようにする」財務戦略を立てることで、節税メリットを享受できるということです。返戻金を使う対象とタイミングをうまく使うことがポイントになるのです。

法人保険の選び方

ここまで法人保険を節税対策として利用する方法を解説しましたが、法人保険は個人が利用する保険とは少し違います。そのため選び方も個人の保険と同じ選び方をしては、本当に必要な保障が受けられなかったり、節税メリットがまったくなかったりします。法人保険を選ぶうえでポイントとなるのは以下です。

1. 返戻率が高いものを選ぶ

返戻率が高いものを選ぶのは個人の保険と同じですが、法人保険の場合保険料払込期間が終わってからも、返戻率が100%を超えるものは少ないです。加入期間が高いほど返戻率も高くなりますが、返戻率85%〜90%程度になることも多いです。そのため支払った保険料の総額よりも解約時の返戻金は少なくなる場合があることを考慮したうえで、財務戦略に組み込む必要があります。

2. 全額損金にできるものを探す

法人保険のすべてが保険料の税額を損金にできるわけではありません。2分の1のみ、4分の1のみのものが多いです。2分の1や4分の1でも節税メリットは享受できますが、同じ保障内容や返戻率ならば、全額損金にできるものの方がいいですね。ただし保険の営業マンが、全額損金にできる面を売りにして販売してきた場合は、それ以外の面(返戻率など)にデメリットのある商品であるケースもあるので、注意が必要です。

3. もっとも重視すべきは保障

節税対策の面ばかりを強調しましたが、法人保険の加入で一番重要なのは保障です。いざ経営者である自分に万が一のことがあったときに、会社を支えることができるだけの保障が得られるのかよく検討しましょう。自分が死亡してしまい、会社の売上が減少したときにそれを穴埋めできるキャッシュが必要です。保険金が充分な金額であることはもちろんですが、保険金の支払い事由もよくチェックして加入しましょう。

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