徳島県神山町の事例にみるサテライトオフィス×地域活性化の可能性

地方の過疎化が問題となる中、サテライトオフィスの誘致により地域活性化を図る自治体があります。

神山町は徳島県北東部の山あいの町。
人口は5000人ほど、県庁所在地の徳島市までは車で1時間弱の距離です。

抜群のITインフラ環境を強みに企業誘致

神山町は、「神山アーティスト・イン・レジデンス」という取り組みを
1999年から行っています。

これは芸術家を招聘して町に住みながら作品を創作してもらう事業です。

同事業を手がける「NPO法人グリーンバレー」は、次にアーティスト・イン・レジデンスの経験を活かし、対象を企業とした「ワーク・イン・レジデンス」の取り組みを開始します。
この取り組みによって、2016年5月時点で13社のサテライトオフィス誘致に成功しました。

徳島県は2000年代から光ファイバー網の整備を推進し、その普及率は全国1位だといいます。
神山町も豊かな自然を誇りながら、ITインフラ環境は十分。
こうした強みもあり、IT企業をはじめとする多くの企業が、都会にない生活環境を求めやってきます。

サテライトオフィスでは、開発者や技術者のような遠隔勤務できる社員が滞在し、Skypeなどで本社と連携しながら業務にあたります。
通勤ストレスなどがなくなり、快適に働けるのが特徴です。

今では13社に及ぶ神山町のサテライトオフィスですが、その先駆けとなったのは名刺管理サービスで知られるベンチャー企業「SanSan」でした。

SanSanの事例

SanSanは、同名のクラウド名刺管理サービスで業界シェアNo.1を誇る2007年設立の企業。
本社を東京都渋谷区、支社を大阪、名古屋、福岡に構えるほか、サテライトオフィスとして神山ラボ、京都ラボ、長岡ラボをもちます。

同社の神山ラボができたのは2010年10月です。
社長の寺田親弘氏が神山町の取り組みに共感し、自然豊かな地にある築70年の古民家をオフィスとしました。

寺田氏は大手商社の三井物産出身。
米国シリコンバレー駐在時、現地のクリエイター達が快適な環境で時間や場所に囚われず仕事に打ち込み、世界規模のサービスを生み出す姿を目の当たりにしていたそうです。

そういった経験もあり、職住接近の働きやすさと、より静かで集中できる環境による生産性向上を目的に神山町でのサテライトオフィス開設を決意しました。

同社ではリモートワークを導入しやすい開発者のほか、営業担当者もサテライトオフィスで勤務します。
テレビ電話などを活用した営業が可能であることを証明し、短期・長期含め多くの社員がリモートワークを経験しているようです。

同社の挙げるサテライトオフィスを開設したメリット・デメリットは以下の通り。

メリット

・満員電車による通勤で余計な時間とエネルギーを使わず、仕事に集中できる
・転地効果と自然に囲まれた環境、神山に集う多様な価値観をもつ人々との出会いを通して心身のリフレッシュにつながる
・山籠りにより集中力が向上する

デメリット

・静かな環境ではモチベーションが上がらない 等、効率が上がるか否かは個人差がある
http://tokushima-workingstyles.com/satelliteoffice/office/office03.html

豊かな自然環境という点が生産性向上にプラスと働くかどうかは個人差があるようです。
でも、満員電車に乗らずに済むという点は多くの社員にとって魅力的に映ると思われます。

広がる神山町の取り組み

SanSanを皮切りに多くの企業が神山町にサテライトオフィスを設けました。
そうした町の取り組みが評価され、神山町には全国の自治体や企業から多くの視察が訪れます。
2015年度の視察数は388団体、2619人に上り、過去最多となったようです。

サテライトオフィスの誘致は、過疎化の進む自治体にとって空き家を活用できるうえ、税収の増加にもつながります。
また、企業にとってもSanSanの項で前述したようなメリットを享受でき、自治体と企業がWin-Winの関係で結ばれます。

企業は地方創生、地域活性化がさけばれている時代に社会貢献も果たせますし、リモートワークを希望する優秀な人材も獲得できるかもしれません。
自治体が受け入れ体制をしっかり整えれば、サテライトオフィスという潮流は今後も全国的に加速するのではないでしょうか。

個人ワーカー視点からのサテライトオフィス

サテライトオフィスを考える上で、自治体・企業という視点から個人に移してみましょう。

都市で働く個人の中には、田舎暮らしに憧れを抱く人も多いはずです。
ただ、田舎で暮らすためにはお金を稼ぐための仕事が必要ですし、地方で一定収入を得る仕事を見つけるのは困難だとされています。

昨今普及したインターネット環境はそうした事態を解決しました。
ネットを活用したリモートワークは働く場所を選びません。
つまり、これまで東京の本社で行われた仕事はインターネットを通じ、個人のPCで仕上げることができるのです。

地方移住がブームとなりだしたのと、地方においてインターネット環境が拡充された時期が重なったのは偶然ではない気がします。
インターネットは、田舎暮らしを希望する個人と、移住者を増やしたい地方自治体をつなぐ役割を果たしました。

サテライトオフィスは、オフィスまるごと地方につくる発想です。
企業がコミュニティを地方に設け、社員が何人かまとまって地方移住します。

地方で暮らしたい個人は、フリーランスというリスクをとらず、チームで働く機会を得るために、サテライトオフィスをもつ企業に就職して働く選択肢も考えられると思います。

サテライトオフィスが自治体と企業間の取り組みとして加速することで、田舎で暮らしたい個人ワーカーもメリットを享受できるでしょう。

以上のように、サテライトオフィスでは、地域を活性化したい過疎化する自治体、豊かな自然環境で生産性向上を目指す企業、地方で働きたい個人の3者がWin-Win-Winとなります。

3者それぞれの需要は今後も伸びると推測されますから、サテライトオフィスが地域活性化において秘めている可能性は非常に大きいといえます。

神山町は豊かな山あいの田舎として語られていますが、同じ徳島県で海沿いの美波町もサテライトオフィスの誘致が盛んです。
これからも全国各地の田舎で特色あるサテライトオフィスが登場することを期待しましょう。

参考リンク
http://www.in-kamiyama.jp/
http://jp.sansan.com/
http://tokushima-workingstyles.com/home.html
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO02005540W6A500C1LA0000/
http://itnp.net/article/2013/08/18/296.html
http://forbesjapan.com/articles/detail/6093
Image Credit: http://www.town.kamiyama.lg.jp/download-wall/

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