残りわずかとなった平成最後の年、2019年が幕を開けました。
新年の祝賀ムードも冷めやらぬ中、早くも「2019年は5G元年」と報じるメディアがにわかに沸き立っています。
「5G」とは第5世代移動通信システムの略記で、従来の4Gとは一線を画す存在として今、世界の注目を集めています。
5Gとは?
スマートフォンの画面上部にしばしば見かける「4G」もしくは「3G」が、「5G」に代わり、そして「今までよりつながりやすくなる」―。多くの人はそのようなイメージを持っているかもしれません。
しかし、その「G」と名の付く移動通信システムが何なのか、はたまた「5G」になると今までとどう変わるのかがよくわからない方も少なくないでしょう。
「G」は「Generation(世代)」の略記です。1985年から約10年ごとのスパンで1~4へと世代交代をしてきました。それは、携帯電話の進化の時代と密接に関わりあっていて、両者は切り離して語ることができない存在です。
なぜならば、この「G」の付く移動通信システムは、携帯端末をはじめとする様々なデバイスを使用するために不可欠な、大手携帯キャリアが提供している通信インフラだからです。
このインフラたる移動通信システムが「5G」に進化すると、その可能性はもはやスマートフォンなどの携帯端末に限らず、アイデア次第で思いもよらぬ拡がりを見せるだろうと期待されています。
5Gの主要な特徴は、「超高速」「超低遅延」「同時多接続」です。これらのメリットがあらゆるデバイスと私たちの生活をつなぎ、IoTを急激に加速させることで「一歩先の未来」を実現するのは確実視されています。
3G、LTE、4Gそして5Gの違い
移動通信システムには現状、3G、LTE、4Gが用いられているため、よく目にしたり、耳にしたりすることでしょう。
しかしながら、この手のIT用語には尻込みしてしまう方も多く、これらの整理がつかないうちに「5G」などと言われても、いったいどんなものなのか漠然とイメージすることも難しいものです。
3G、LTE、4G、5Gは、一見ばらついているようですが、移動通信システムの進化の同一線上にあります。
3Gは第3世代、4Gは第4世代、5Gは第5世代とシンプルですが、LTE(Long Term Evolutionの略。日本語訳で「長期的進化」。)は3Gと4Gの過渡期に誕生した移動通信システムであるため、以前までは「3.9G」や「Super 3G」と呼ばれていた特殊な存在です。
しかし、その後LTEも4Gと同格の扱いを受けることが世界的に認められ、大手携帯キャリアでも4Gと称してLTEを提供するようになりました。したがって、3G、LTE/4G、5Gと並べるのが適当です。
3GからLTE/4Gにかけては、通信速度の面で大きく進歩しました。例えば、何かデータを読み込む(ダウンロード)場合において、3Gだと最大14.4Mbpsだったところ、LTE/4Gでは、その約10倍(最小幅では約5倍)にあたる150Mbps(※各社ごとの提供サービスにより差がある。)で読み込めるため、これまでもたつくことが多かったネットサーフィンがサクサクできるようになりました。
そして、これから普及が期待される5Gは、「超高速」「超低遅延」「同時多接続」とスピードはもちろん、これまでLTE/4Gでもかなわなかった課題をもクリアできてしまうスケールの大きい進化を遂げた通信システムです。
具体的に、先ほどと同一ケースと仮定してデータを読み込む際の最大速度は、約10Gbps(※基地局までの距離によって異なる。)とされています。これは、ギガをメガに直すと、約10240MbpsとなるのでLTE/4Gの約100倍の速さにあたり、まさに「超高速」に他なりません。
次に「超低遅延」ですが、簡単な例えで言うと、テレビ電話をした際にこちらが手を振ったとしても、相手にはやや遅れてその手の動きが画面上に現れますが、その際の遅れがものすごく小さくなることが「超低遅延」と呼ばれます。
実際、LTE/4Gが10~数十ミリ秒の遅延が発生していましたが、5Gでは1ミリ秒以下まで小さくなるため、最低でもその精度は10倍まで高まるのです。
そして、「同時多接続」ですが、5Gになると従来の30~40倍の約100万台/k㎡のデバイスが同時接続できるとされています。このメリットにより、携帯端末だけでなく、自動車やクレーン車など、ありとあらゆるデバイスをひとつのアクセスポイントから制御できるようになり、今後のIoT化に拍車をかけていく見通しです。
5Gをめぐる世界の動向と日本の動きは?
5Gにおいて熾烈な覇権争いを繰り広げているのは米国と中国です。実は、2018年末のファーウェイショックは安全保障の問題に見せかけて、このことが根深く関連しているとも指摘されています。
米国は、中国を5G市場から締め出しつつ、すでに2018年10月1日にベライゾンワイヤレスが世界初となる5Gの商用サービスを開始しています。
一方、中国の3大通信キャリアである、チャイナモバイル、チャイナテレコム、チャイナユニコムは2019年末~2020年にかけて5Gの商用サービスを開始するとしています。
一見すると米国が5G市場において優勢であるように思われますが、米国も中国もほぼ同時期の2019年上半期~中期に、5G対応スマートフォンを発売する見通しです。
5G市場において存在感があるのはその2か国ではありますが、「2019年は5G元年」と呼ばれるだけあり、韓国をはじめとする北東アジア、ヨーロッパ諸国、オーストラリアも2019年から5Gの商用サービスに踏み切る見込みです。
そうした世界の動きにやや遅れを取りつつ、日本は当初の「2020年から5G導入」目標を前倒しし、2019年9月のラグビーワールドカップに合わせて5Gのプレサービスを開始する予定です。そして、2020年の東京オリンピック/パラリンピックまでには本格的に商用サービスを開始するとしています。
5Gの普及における今後の懸念
先ほど、米国は中国を5G市場から締め出そうとしていることに触れましたが、5G市場で世界を牽引している米国がなぜ中国を脅威に思っているか、疑問に思われるかもしれません。
中国には、大手通信キャリアの他に、忘れてはならない大手通信機器メーカーのファーウェイとZTEがあり、5Gにおける技術において他国の追随を許さないほど抜きんでています。5Gにおける技術の特許も多く有しているため、事実上、世界の5G市場を牽引しているのは中国と言わざるを得ません。
その証拠に、日本のソフトバンクをはじめとする多くの企業と、共同で5Gの実証実験を行っており、これから5Gへの本格的な礎を築いていく必要のある多くの企業は、この度のファーウェイショックで大きな打撃を受けることになりました。
また、ファーウェイはスマートフォンの世界シェアがアップルを抜いて第2位に君臨したイメージが強いかもしれませんが、5Gの普及になくてはならない通信基地局数が世界一であり、この出荷がストップするとなると5Gの世界的普及は遅滞する可能性があります。
5Gは通信基地局がなければ電波が飛ばないため、期待されるような「東京にいながら沖縄の患者の遠隔手術」や「東京にいながら北海道の工事現場の重機の運転」などはできません。そのため、全国の隅々まで通信基地局が必要です。
ファーウェイショックがもたらす影響がどこまで響くかは未知数ですが、日本の大手携帯キャリアは間違いなく痛手を負ったことでしょう。
5Gで私たちの生活は何が変わる?
多くの人は、「5Gで私たちの生活がどう変わるか」が一番気になるのではないでしょうか。では、日本全国の隅々まで通信基地局が配備され、5Gが自在に飛び交う数年後の未来であると仮定しましょう。
まず、東京一極集中の現在の常識が変わらないとすると、東京の本社の会議に北海道からテレビ電話で参加しても声や動作が遅れることなく会議室のモニターに届き、まさにその場にいるかのような会議参加が可能になります。
5Gは大量のデータ送信が可能で、さらに動きにずれがないため、地方の離島にいながら東京の名外科医が遠隔で操作する手術支援ロボットで心臓手術をしてもらえるようになるでしょう。
また、VRを活用し、VTuberのライブに自室から自分のアバターで参加し、自身の動きをそのままに反映させ、全国から参加しているたくさんのアバターがリアルタイムで思い思いに動いて臨場感のあるライブを仮想体験することも可能になるかもしれません。
これらの5Gを活用したアイデアは、現在、総務省も「5G利活用コンテスト」(2018年10月~)を開催中ですし、もはや私たちのアイデア次第で無限の可能性が考えられる「一歩先の未来」がそこまで来ていると言えるでしょう。
様々な課題もはらんでいますが、「一歩先の未来」への想像を掻き立ててくれる5Gを、どうポジティブに捉えていくかで新たなビジネスチャンスが誕生していくのではないでしょうか。