パナマ文書の何が問題なのか(上)−税金回避の仕組みとは−

世界中で大きなニュースとなっているパナマ文書ですが、そこには日本の大企業や有名起業家の名前もありました。
今回はパナマ文書の問題を理解するうえでポイントとなる、租税回避の仕組みについて解説します。

世界最大のリーク?パナマ文書

パナマの会計事務所「モサック・フォンセカ」から、21万件もの個人・企業の機密情報が流出したパナマ文書問題が、世界中で大きな問題になっています。
いまだ情報の全貌、問題の構造はつかめず、賛否両論といった状況です。

機密文書には世界の大企業や富裕層の、租税回避に関する情報が含まれており、
21万件の情報は、データベース化されて世界中の報道機関がアクセスできるように公開されています。
文書には有名な企業経営者や国家元首の名前も列挙されており、これからさらなる問題に発展することは確実でしょう。

楽天の三木谷社長やソフトバンクの孫社長など、日本の有名企業や経営者の名前も報道されていますが、
文書に名前がのっている=適切な納税をしていない=悪いと単純に考えていいのでしょうか。

本記事では、租税回避の仕組みを理解し、脱性と節税の違いを明確にし、
今回明らかになった租税回避の何が悪いのか・悪くないのかを説明していきたいと思います。

税金回避は誰でもやっていること?

今回報道されているパナマ文書で問題となっている租税回避は、大きく言えば節税対策のひとつであると言えます。
そしてパナマ文書で明らかになった租税回避行為も、違法な脱税ではなく、そのすべてか、ほとんどが、法律には反しないものと考えられます。

そもそも節税対策は、大きく以下の3つに分類できます。

① 法律で認められている一般的なもの

② パッケージ化された金融商品を利用するもの

③ タックスヘイブンなど国外に資産を逃避させるもの

① 法律で認められている一般的なもの

このうち、①の法律で認められている節税は、個人でも企業でも一般的に行っている人は多いです。
個人事業主でプライベートと事業の線引きの難しい経費を、事業の経費に含めてしまうとか、
各種控除を利用して課税対象を小さくするとか、個人でも使える税制上の特例を利用するなどの方法です。

また、多くの大企業は「租税特別措置法」を活用して、法人税の納税額を修正し、実際に納税する額を小さくしているケースも多いです。
そのため、莫大な利益を毎年計上している日本を代表するような大企業でも、
日本の法人実効税率を大きく下回る法人税率でしか納税していないというケースもあります。
これも問題として批判されることはあっても、合法的な節税対策と認められています。

② パッケージ化された金融商品を利用するもの

②のパッケージ化された金融商品とは、金融機関が大企業や富裕層に向けて販売している節税用の商品のことです。
資産をその節税商品として保有することで、納税を回避することができるというものです。

たとえば、一次的に事業で莫大な利益を計上してしまうと、その年度は法人税額も莫大になってしまいます。
しかし、航空機や船舶、不動産などを証券化した商品を購入することで、減価償却費を損金算入し、
その年の利益を圧縮して納税額を少なくするという方法ととることができます。
この金融商品の活用という方法も法律に反してはいません。

③ タックスヘイブンなど国外に資産を逃避させるもの

問題は、③のタックスヘイブンなどのオフショア(海外)取引を活用した租税回避行為です。
税制は国家によって異なり、税率や何が課税対象とされるのか、といった基準に国際的な統一基準は存在しません。

そのため、複数の国家にまたがって事業を行う企業に課税するために、国家同士は「租税条約」を締結します。
しかし、それも二国間や一部の地域内で締結されるもので、グローバルな統一された条約ではありません。

グローバルに課税を監督する国際機関も存在しません。
そのため、国によって異なる税制や、国家間によって異なる租税条約の穴をついて、大企業や富裕層は租税回避ネットワークを構築し、納税額を最小化しているのです。
この租税回避行為は、世界大手の金融機関や会計・弁護士事務所などの専門家がビジネスとしてサポートしており、それぞれの国家の法律で裁くことはできません。
そのため違法な脱税ではありません。

しかし、制度の穴をついた脱法行為ではあると考えられます。

タックスヘイブンはどこにある?

一般的に、スイスやルクセンブルク、ケイマン諸島、バージン諸島などが、「タックスヘイブン」として有名です。

しかし、これらは租税回避ネットワークに利用されているというだけで、厳密にはこれらのエリアだけがタックスヘイブンというわけではありません。
結論から言うと、タックスヘイブンは特定のエリアに存在するのはなく、複数の国家にまたがる複雑な仕組みとして存在しています。

具体的に、租税回避行為の仕組みの一部をご紹介しましょう。
Appleが開発し、多くの多国籍企業が利用していると言われる「Double Irish with Dutch sandwich」は、完全な租税回避システムと呼ばれます。
非常に複雑な仕組みで課税を回避していおり、これには4つの法人が利用されます。

登場する会社は以下の4つです。

  • アメリカの本社
  • アイルラインドの海外営業拠点
  • バミューダでマネジメントされるアイルランド第2法人
  • オランダのトンネル会社

複雑な仕組みですので、いくつかの条件を整理しながら解説します。
まず「アメリカで売り上げを計上すると高い法人税がかかる」ため、企業はアメリカでの課税を回避したいと考えます。
その方法としては、税率の低い国外の子会社に、高い値段で商品・サービスの代金や財産権のライセンス料を支払うことでお金を移動させるという方法があります。
これが仕組みの前提です。

そこでアイルランドが登場します。
アイルランドでは「営業実態がアイルランドにないアイルランド法人は、課税の対象外」となっているため、
営業実態のないアイルランド法人に本社からライセンス料という名目でお金が送られてきても、課税されません。
しかし、このアイルランド法人が本社と直接取引してしまうと、営業実態がアイルランドにあることになってしまい、この条件を満たせません。
そこで、営業実態を法人税のないタックスヘイブンである「バミューダ」に置いた実態のない会社を設立します。

しかし、ここで「バミューダで営業すると租税回避が明らか」になるという3つめの条件が登場します。
そこでアイルランドに、本当に営業する会社を置き、実際に営業拠点として活動するのはそちらの会社とします。

本社は、実態のないアイルランド第2法人に知的財産権を譲渡し、第2法人は見返りとして、本社に知的財産の支払いを行います。
第2法人に対して本社は高額の支払いを行うことで、アメリカでの課税を回避し、
第2法人は営業実態がバミューダにあるため、アイルランドでの課税を回避します。

ここでさらに問題が発生します。
アイルランド営業拠点の売り上げが、アイルランド第2法人に送金されると、そこで課税されてしまうのです。

しかし、「オランダへの送金ならば課税しない」という4つめの条件があるため、
アイルランドの営業拠点はオランダの実態のないトンネル会社へと、ライセンス料を送金します。

これでアイルランド法人間での送金も課税されなくなります。
オランダ法人に移されたアイルランド営業拠点の売り上げは、バミューダへ送金され、
アメリカでも、アイルランドでも、オランダでも、当然バミューダでも課税されなくなるというわけです。

このような租税回避システムには、イギリスのいわゆる「シティ」と呼ばれる金融街と、英国王室に関連する英国領が利用されています。
また、アメリカは国内に租税回避システムに利用できるエリアが存在し、タックスヘイブンはこれらの国家・エリアを複雑に組み合わせたネットワークであり、
多国籍企業はこのネットワークに資産を経由させることで、租税負担コストを最小化しているのです。

以上がパナマ文書に列挙されているような、大企業・富裕層の活用している租税回避システムの仕組みの一部です。
それでは、このような方法で税金負担を回避することは何が悪いのか、明日の記事でご紹介します。

Source: https://panamapapers.icij.org/the_power_players/

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