パナマ文書の何が問題なのか(下)−彼らは何が悪いのか−

パナマ文書の名前があるというだけで批判対象になっている人もいますが、彼らは何が悪いのでしょうか。
租税回避が国家や私たちの生活に及ぼす影響について、解説します。

節税と脱税と租税回避の違い

前回の記事では、パナマ文書で明らかになった大企業や富裕層の租税回避行為が、複雑な仕組みで行われているということをご紹介しました。
パナマ文書に列挙されていた企業や個人は、続々と批判対象となっていますが、租税回避は悪いことなのでしょうか。

納税額を少なくする方法には、節税と脱税、そして租税回避があります。
まずはこれらの違いを理解する必要があるでしょう。

節税

節税とは前回の記事でも紹介したような、合法的な範囲内での納税額の最小化対策のことを言います。
各種控除を利用したり、特例を利用したりする方法で、合法的なものです。

脱税

これに対して脱税とは、法律に反して課税を逃れようという方法のことです。
たとえば、売り上げを少なく計上したり、経費を多く計上したり、という行為のことで、発覚すれば法律に基づいて処罰の対象となります。

租税回避

節税、脱税に対して、租税回避は、法律は犯していないものの、グレーゾーンに属するものと言えます。
それは、複雑な仕組みを利用して法律の網をかいくぐったもので、各国の税制で処罰することはできないものの、
回避の方法は悪質ととられてもしょうがないもので、その額も莫大であるため、裁判に発展することも多々あります。

違法ではないが倫理的に問題

租税回避行為は法律に反した脱税行為とは異なることから、本当に批判されるべきなのかという主張もあります。

自分の力でもうけた彼らが、法律に反しない範囲で課税を逃れるのは問題ないのではないか、
そもそも先進国の法人税が高すぎるのではないか、という意見です。
大企業や富裕層の租税回避は、何が問題なのでしょうか。

大規模な租税回避行為は「福祉国家の存亡に関わる」問題だ、というのが結論です。
簡単にこれまでの歴史を振り返ります。

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租税回避行為に関するこれまでの歴史

戦後世界の先進国は「福祉国家」路線で、高い社会保障制度を導入していました。
しかし、経済成長の鈍化と共に財政赤字が問題化し、80年代以降は「小さな政府」が目指されるようになりました。

経済への国家の介入が徐々に少なくなっていったことで、所得の再分配が充分に行われなくなり、所得格差が問題になるようになりました。
特に2000年代以降は、世界での所得格差は第一次世界大戦前と同様の非常に高い水準に入りました。

しかし、先進国はアメリカ以外、どこも低成長、デフレ、労働人口の減少といった問題を抱えていることから、
財政赤字の縮小や社会保障の削減、増税といった問題が正当化され、各国の国民は反発しつつも、こうした政策を受け入れてきていました。

しかし、膨大な売り上げを上げている巨大多国籍企業や巨万の富を保有する富裕層が、巧妙に課税を逃れていたとしたら、事情は変わります。

パナマ文書(租税回避)が問題視される2つの理由

1つは、大企業・富裕層の課税逃れで国家の税収が大きく損なわれていること、
もう1つが、富を持つ者ほど課税を逃れ、富を持たない庶民ほど課税を負担しているとしたら公平性が保てないことです。

ある調査では、1999年から2007年の9年間で、アメリカでは3300億ドル(約36兆円)を越える税収が、日本でも1700億ドル(約18兆円)を越える税収が喪失しているという調査結果が出ています。
1年当たり2兆円の税収があれば、日本の増税や社会保障削減政策も、変わっていたかもしれません。

しかも、パナマ文書には世界の国家元首にあたる人々の名前も公開されています。
政策を立案・運用する為政者が課税逃れをしていたのです。

こうした事実が明らかになれば、まじめに納税している一般人は納税意欲を失うでしょう。
大企業・富裕層の課税逃れは、いずれは国家の政策に、そして私たちの生活にも大きな影響を及ぼす問題で、人ごとではないのです。

今後はどうなる?

今回明らかになったパナマ文書は、氷山の一角に過ぎません。
世界的な銀行、プライベートバンク、会計事務所・法律事務所などが、租税回避のアドバイザリーをビジネスとして行っています。
租税回避を行っているのは、パナマ文書で明らかになった21万件程度ではすまないでしょう。
今後さらに増える可能性はあります。

前回の記事で紹介したように、現在の租税回避は点ではなくネットワークで行われています。
そのため、どこか一国が税制を変更したり、租税条約を修正したりしても、あらたな仕組みが開発されてしまえば課税できません。

そのため、今後はOECDなどが主導して、租税回避を規制する仕組みが構築されていく流れが生まれると思われます。
ただし、そもそも法人税という税制の形態そのものが、すでに時代遅れになっているのかもしれません。

租税回避を取り締まるだけでなく、企業の活動の負担にならないような、新しい時代に適合した税制が必要とされているのかもしれません。

パナマ文書に名前のあった多くの企業や経営者は、身に覚えがない、租税回避の意図はないと主張しており、日本のメディアはそれをそのまま報道しているのが現状です。

実際、本当に租税回避の意図のない人もいるかもしれません。
しかし、租税回避システムが国際的な金融機関や会計・弁護士事務所のビジネスとして行われている以上、その文書に記載されている企業・個人の大部分が租税回避に関わっていると考えなければならないのは確実です。

これから日本はどのような対策を行うのか、国税庁を中心とする政府はどのような対応をとるのか、注目していく必要がありそうです。

Source: https://panamapapers.icij.org/the_power_players/

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