スーツ代が経費になる特定支出控除とは

「特定支出控除」という制度をご存知でしょうか。この制度を利用すれば、会社員でも仕事に関する出費が経費として認められるのです。特定支出控除の制度は平成24年度から改正され、さらに利用しやすくなりました。しかしまだ制度を利用する人は少なく、理解している人も少ないです。今回は特定支出控除がどれだけお得なのか、どこまでを特定支出に計上することができるのか、ご紹介しましょう。

特定支出控除の対象

会社で働いている会社員の場合、仕事で使う多くの費用は会社が出してくれます。しかしスーツ代やスキルアップのために受けた資格の受験費用、そのテキスト代、セミナーの参加費など、仕事に関連することでも自腹で出している費用も少なからずあると思います。この仕事に関連する費用が、ある一定の範囲を超えた場合に、確定申告するときに経費として計上して所得税を少なくすることができます。個人事業主も業務に関連する経費は必要経費として計上できますが、これが実は会社員の方でもできるのです。特定支出控除の対象となるのは以下のような出費です。

①通勤費:通勤に使った交通費
②転居費:転勤時に使った引っ越し費用
③研修費:業務上必要なスキル・知識のために参加した研修の費用
④帰宅旅費:単身赴任者が自宅に帰るときに使った交通費、旅費
⑤資格費:業務上必要な資格を取得するために使った費用
⑥図書費:業務に関連する書籍の購入費用
⑦衣服費:業務に必要なスーツや作業着などの費用
⑧交際費:接待やお歳暮などの業務上必要な交際費用

 ⑥、⑦、⑧に関しては65万円以下という上限があります。しかし上記の項目の大半は、通常の企業では手当などの形で支給されます。特に通勤費や転居費はほぼ全ての企業で支払われるでしょう。そのため会社から手当が支払われなかった場合や、支払われた手当で足りなかった場合に、その足りなかった部分のみを特定支出控除として計上することができます。また計上できる範囲にも条件が決まっています。

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特定支出控除の範囲と条件

特定支出控除は「特定支出が給与所得控除の半分以上になる場合」が対象とされます。「給与所得控除」とはなんでしょうか?個人事業主の場合、必要経費を自分で計算して計上することができますが、会社員の場合はどこまでが経費なのか、線引きが難しいため必要経費のかわりに一律の額が給与所得控除として所得から引かれ、残った部分に所得税がかけられて課税されます。最終的な給与所得は以下の計算式で計算されます。

「給与収入ー給与所得控除ー特定支出控除=給与所得」

また給与所得控除の額は以下のように決まっています。

①年収〜180万円:年収×40%
②年収180〜360万円:年収×30%+18万円
③年収360〜660万円:年収×20%+54万円
④年収660〜1000万円:年収×10%+120万円
⑤年収1000〜1500万円:年収×5%+170万円
⑥年収1500万円〜:一律245万円

年収は給与年収のみの額です。例えば年収450万円の会社員の場合は③の条件に入りますので、控除額は「年収450万円×20%+54万円=144万円」になります。この会社員の方の給与所得は「450万円ー144万円=306万円」となり、306万円に税率がかけられて所得税が計算されます。特定支出控除はこの給与所得控除の半分以上(最大125万円)となった場合に利用できるという条件があります。つまりこの年収450万円の会社員の場合、給与所得控除144万円の半分である「72万円」から特定支出の額が超えた分だけ、特定支出控除の制度が利用できるということです。

例えば特定支出が100万円あった場合「特定支出100万円ー72万円=28万円」と計算できます。給与収入から給与所得控除を差し引いた額が「306万円」でしたが、ここから特定支出「28万円」を差し引くと「278万円」となり、給与所得をより少なくすることができます。つまり課税所得が少なくなるため、それだけ支払う所得税を少なくすることができるということです。

以上の説明で課税所得がどれだけ少なくなるのかは理解していただけたと思います。それでは実際にはどれだけお得になるのでしょうか?所得税の税率は金額によって変わるのですが、上記の会社員の方のケースでは課税所得の「〜195万円の部分」に「5%」、「195〜330万円の部分」に「10%」が課税されますので、特定支出控除を利用する前は「(195万円)×5%+(306万円ー195万円)×10%=20万8500万円」が実際に支払う所得税になります。特定支出控除を利用した場合は「(195万円)×5%+(278万円ー195万円)×10%=18万500円」となり2万8000円もお得になります。

特定支出控除はどこまで認められる?

特定支出控除を利用するには、その出費の領収書と会社からの証明書が必要になります。確定申告が必要な上にこのような条件があると面倒ですが、特定支出が多い方にとっては利用するメリットは大きな制度です。しかし実際に確定申告する際に悩みになるのが「どこまでが特定支出に認められるのか」というところです。

原則的には「業務に必要な出費」ということになりますが、どこまでが業務に必要と認められるのかという点はあいまいです。ケースバイケースになるのですが、例えば図書費に関しては電子書籍閲覧のために端末を購入した場合は、この端末代を計上することはできません。またスーツ代は基本的に計上できますが、業務で不必要なブランド品や衣服に関する規定がない会社でのカジュアルな服などに関しては認められません。帰宅旅費は1ヶ月4往復までが認められ、交通費はグリーン車などは認められません。特に交際費はどこまでが業務上必要経費であったのか区別することは難しいですが、取引先に対する接待や贈答のみが認められ、職場での親睦会費用は認められません。

特定支出控除の制度はこれまでほとんど利用する人がおらず、平成24年度の改正後も利用できる人は非常に限られているのが現状です。そのためどの程度の範囲を超えたら認められないのか、というところも事例が出ておらず、判断は会社と個人に任せられています。しかし会社側がなんでも特定支出と認めてしまうと、あとあと税務署から目をつけられる可能性もありますので、社内で合理的な範囲で認めるようにルールを作るといいでしょう。会社員の方は、自分で計算してみて該当するようであれば、まずは経理部の人に相談してみましょう。

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