役員退職金を使って節税するテクニックとは

会社を経営する以上、すべての経営者が節税対策をしなければなりません。うちは儲かっているから節税なんてしない、などという経営者の方はいないでしょう。節税する方法は非常にたくさんありますが、その方法の1つに「役員退職金」を使って節税する方法があります。役員退職金を使った節税は自分の所得税と、会社の法人税を共に節税できるというメリットがあります。今回は役員退職金による節税方法を解説しましょう。

役員退職金を使った所得税の節税

退職金控除

会社としては役員退職金は大きいほど節税になりますし、受け取る側も大きいほどいいですね。しかし所得税の面から考えると、退職金控除には一定の範囲があります。支給する退職金のうち、控除できる額には以下のように決められています。

勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
勤続年数20年以上:800万円+{70万円×(勤続年数ー20年)}

勤続年数が15年ならば「40万円×12年=480万円」、勤続年数が30年ならば「800万円+{70万円×(30年ー20年)}=1500万円」が退職金控除されるのです。退職金の額がこの金額以下ならば、所得税はかからないということです。

超えた分は半分だけ課税される

この退職金控除の額は、退職金として考えると以外と小さいです。しかし超えた分も全額が課税されるわけではありません。退職金の金額から控除額を差し引いて、残った控除後の所得には半分だけ課税されます。勤続年数が30年で退職金が3000万円だった場合は、退職金控除が1500万円ですので、控除後の1500万円の半額である「750万円」に所得税をかけた額が課税されるということになります。

分離課税によって他の所得とは別に計算

さらに退職金は他の所得とは別に分離して課税されるという仕組みになっています。普通に考えると給与などで得た所得と退職金を合算して、そこに所得税が課税されると考えるのですが、分離課税ということはそれだけ所得税率が低く抑えられるということです。上記のように退職金の課税部分が「750万円」ならば、所得税率は「23%」ですので、「750万円×23%=172万5000円」が納税額となります。3000万円のうち手元に残るのは「2827万5000円」ということになります。ここまでは経営者でなくても享受できる退職金のメリットですが、経営者の場合は別の利用方法があるのです。

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役員退職金の損金算入

以上の説明は退職金によって所得税が節税される仕組みでした。会社経営をしていれば退職金を多く支払うことで、自分にとっては所得税の節税になり、会社は退職金を損金参入することで法人税の節税を行なうことができます。法人税の節税効果は、支払った退職金額×法実効税率です。

法人税の税率は法人の種類や規模によって異なりますが、平成27年度からは引き下げられて、普通法人ならば資本金1億円以上の場合は23.9%、資本金1億円以下の中小法人ならば年間800万円以上の所得は同じく23.9%、年間800万円以下の所得については15%となっています。実際の法人税の実効税率は、中小企業ならば以下のようになります。

  • 所得:〜400万円の部分:21.7%
  • 所得:400万〜800万円の部分:23.4%
  • 所得:800万円〜の部分:36.4%

役員退職金は退職金支給額に法人実効税率をかけただけの額が節税できます。そのため退職金は大きいほど節税効果は高くなります。ただしいくらでも支給できるわけではありません。損金に参入できるのは、以下のように上限があります。

役員の最終報酬月額×勤続年数×功績倍率=役員退職金

功績倍率は経営者ならば一般的に2〜3倍程度です。最終報酬月額が70万円、勤続年数が30年、功績倍率が3倍ならば、退職金は「6300万円」となります。それ以上支給しても構いませんが、超えた部分は損金算入できません。功績倍率は役職によって決まりますが、不当に高くすると否認されます。また報酬を退職前だけ引き上げて退職金の損金算入額を拡大する、ということも税務調査で否認されることがありますので、避けた方がいいでしょう。しかしこの範囲内ならば、できるだけ多く支給した方が、会社にとっても自分にとってもお得です。

役員退職金の使い道

退職時に業績が悪化していれば、退職金を受け取ることは難しいかもしれませんが、そうでなければ絶対退職金を受け取るべきです。また引退後も親族などが経営を続ける場合は、退職金を会社に貸し付けるという方法もあります。

退職金が支払われなかった場合、その退職金の分は利益として法人税がかけられます。しかし退職金を支払うほど会社に余裕がないということもあるかもしれません。そのようなときは、一度退職金を支払ってから、元経営者はそれを会社に貸し付けるのです。例えば退職金が3000万円とすると、支払われなかった場合は利益として法人税がかけられ、税引後は2000万円ちょっとしか残りません。しかしこれを退職金として支払えば、大幅に節税できます。受け取った退職金を会社に貸し付ければ、わずかに所得税が引かれただけで、会社にお金が戻ることになります。退職金は会社にとっても自分にとってもメリットの多いものですので、仕組みを理解してうまく活用できるようになりましょう。

Image credit: Marc Brüneke | Flickr

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