フリーランスは法人成りした方がよいのか

フリーランス(個人事業主)として働いていて収入が増えてきたとき、誰もが悩むのが法人を設立するかどうかです。法人成りすると課税方法が所得税から法人税になり、経費に計上できる範囲も変わります。そのため法人成りすることでメリットを受ける人、デメリットを受ける人がいます。今回はフリーランサーが法人成りするべきなのか解説します。

法人成りするメリットはたくさんある

信用が高まる

すでに事業をはじめているフリーランス(個人事業主)の方も、これまでに法人を設立することで悩んだことはあると思います。これから起業したいという人も、起業の本などで「まずは個人事業ではじめてから法人にすべき」などと書いてあるのを読んで、最初から法人を設立するかどうか悩む人も多いでしょう。そこで法人を設立するメリットを整理してみます。
法人成りのメリットは、まず信用が高まることです。一般的に個人よりも法人の方が信用されますので、同じ事業でも融資が受けやすくなったり、販路が拡大しやすくなったりします。起業によっては取引先は法人しか認めないところもあるため、そのような相手に対しても取引できるようになります。また商品などを販売している場合、消費者も信用によって増えるかもしれません。しかしそれよりも大きいのが、税金のメリットです。

給与所得控除によって所得税率が下がる

もっとも大きいのが「給与」による節税メリットです。個人事業と法人では同じ利益を出しても給与所得控除の有無で納税額に差が出ます。給与所得控除とはスーツ代や仕事のためのセミナー参加費などの、給与所得者の「費用」のことです。

例えば1年間の売上が2000万円でそのうち費用が1000万円だったとすると、利益は1000万円となります。個人事業の場合は、この利益に所得税と住民税がかけられます。

1000万円×所得税・住民税43%=納税額430万円

しかし法人成りして法人から自分に給与を支払う形態にした場合はちょっと違います。利益の1000万円のすべてを給与にしたとすると、法人は利益がなくなるため法人税はゼロ、給与を受け取った経営者はこの1000万円から「給与所得控除」を差し引いた分に所得税・住民税がかけられます。

(1000万円ー給与所得控除220万円)×所得税・住民税33%=納税額257万4000円

つまり給与所得控除分だけ所得が少なくなり、その分所得税率が下がり、納税額が少なくできるということです。

会社と自分に所得を分散して節税

所得税は5%〜最大40%まで、所得の大きさによって税率が変わる累進課税制度になっています。住民税まで含めると最大50%、つまり稼いだ額の半分が税金として持っていかれるということです。しかし法人税の場合は中小企業は実効税率は、最大でも約36%となっています。そのため法人成りして経営者になれば、利益を自分への給与と会社の内部留保に分散して、税率の負担を下げることができます。

利益が1000万円だった場合、個人事業主ならばそのすべてに所得税・住民税が43%課税されて、手元に残るのは「570万円」になります。しかし経営者ならば給与を500万円、内部留保を500万円に分けることで法人税を「約23%」、所得税・住民税を「30%」に抑えることができます。さらに先ほど説明した給与所得控除が使えますので、課税されるのは内部留保の500万と給与の346万、手元に残るのは「約781万2000円」です。200万円以上もキャッシュが多くなるのです。

さらに従業員と認められる人に家族がいれば、家族に給与を分散させることもできます。家族従業員が3人いれば、自分一人で給与1000万円を受け取るよりも、400万、300万、300万に分けた方が所得税率はずっと低くなります。しかし家計全体の所得は同じ1000万円ですので、法人の方がずっと有利に節税できるのです。これ以外にも欠損金を繰越控除できる期間が個人事業は3年であるのに対して法人は9年ある点、助成金が受けられる点などで、法人には多くのメリットがあります。

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法人成りのデメリット

ただしあらゆる面で法人成りにメリットがあるわけではありません。税務面では、「法人住民税」の負担がデメリットになります。個人事業は、赤字の場合は課税されません。そのため経費をできるだけ大きく計上して赤字にする人が多いのですが、法人の場合は同じく赤字にしても、年間最低7万円は法人住民税を支払わなければなりません。

また「社会保険料」の負担もあります。個人事業ならば従業員が5人未満ならば、社会保険は任意加入です。しかし法人の場合は強制加入になります。社会保険料は利益が少なくても必ず支払わなければならないため、起業したての小さな会社にとってはとても大きな負担になります。この点では個人事業の方が有利でしょう。さらに経費の面では、フリーランス(個人事業主)の場合は交際費に上限がないのですが、法人では800万円までしか損金算入できないことになっています。

しかし実際に法人成りする上でももっとも大きな障害は、手間が増えることかもしれません。法人になれば提出書類が増えるため、とても自分だけでは処理できません。そのため税理士や行政書士に依頼することになりますが、その分の費用がかかります。法人成りするときにも、手続きを専門家に頼む費用や登記費用がかかってしまいます。

このように法人成りにはデメリットも多いのです。しかしトータルで見ると、売上が増えれば増えるほど法人成りするメリットの方が大きくなっていくのが一般的です。現在フリーランス(個人事業主)で法人設立を考えている方や、起業を考えている人は、自分の収入ならばどっちがお得か、今後の事業計画も踏まえて慎重に検討しましょう。

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