時代と未来にマッチした新制度、ベーシックインカムとは

日本でも導入が主張される「ベーシックインカム」ですが、その仕組みと影響をしっかり理解できているという人は少ないのではないでしょうか。

ベーシックインカムとはどのような制度なのでしょうか。

ベーシックインカムとは

ベーシックインカムとは、端的にはすべての国民に一定額の資金を支給し、最低限の生活ができるようになるという制度です。
しかし、なぜ今ベーシックインカムの導入がホットトピックになっているのでしょうか。

背景には、先進国の抱える4つ問題があります。

  • 人口減少
  • 財政赤字の累積
  • 経済の長期停滞
  • 時代に合わなくなった社会保障制度

アメリカは例外ですが、それ以外の多くの先進国では、すでに少子高齢化・人口の減少が始まっているか、もしくは近い将来に確実に到来します。
それと共に経済成長は鈍化し、多くの先進国は「長期停滞」に入ったと言われます。
停滞に伴う税収の減少から財政赤字は累積し、成長し続ける社会を前提としていた社会保障制度は機能しなくなっています。

これらを一気に解決する手段のひとつとして、ベーシックインカムが有力視されているのです。
一部の国では、ベーシックインカムは実験的に導入され、日銀の黒田総裁が出席したダボス会議でも熱心に議論されました。
社会保障制度は複雑化しているため、抜本的に構造を変えてしまうことで、機能不全になっている現状の改善と既得権益の一掃というソリューションが可能です。

ベーシックインカムに社会保障制度を一元化させることで、年金や医療保険、生活保護などの複雑化して時代に合わなくなっている制度を、抜本的に変えてしまうのです。

低所得者は生活保護を受けていますが、現行の制度ではある程度以上に収入が増えると生活保護は打ち切られ、それ以上に生活を向上させることが難しくなるという「貧困の再生産」が繰り返されています。つまり貧困の遺伝です。
これも、所得に関係なく生活できるだけのお金が支給されるというベーシックインカムの導入で解決されると言われています。

しかし、これだけのメリットを持つベーシックインカムは、まだ本格的に導入された例はありません。
なぜなら、実現には大きな問題があるからです。

ベーシックインカムの問題点

誰でも考えつく問題点として「財源」があります。
所得に関係なくすべての国民に毎月生活できるだけのお金を支給するのですから、それは莫大な財源を必要とします。
最低限の生活をすることができる金額となれば、現在の生活保護の支給額と同額程度は必要になるでしょう。
仮に1ヶ月に1人当たり12万円とすると、1億2000万人に支給するとなれば、172兆円が必要になります。
こどもには支給せず成人のみに支給するとしても、1億人に支給すれば144兆円。どちらにしても天文学的な数字です。
日本の歳入・歳出(一般会計予算)は平成27年度で約96兆円ですから、その1.5倍〜2倍もの財源が必要です。
そのためには増税は免れないでしょう。

しかし、もっとも大きな問題は「労働インセンティブ」です。
かつて社会主義・共産主義国では、すべての国民がどれだけ働いても収入が変わらない制度のために国民の勤労意欲が低くなり、イノベーションの起こらない社会になってしまいした。

ベーシックインカムの導入でも、同じ問題が起こることは充分考えられることです。
働かなくても最低限の生活はできるのですから、働く必要がないと考える人が増える可能性はあります。

労働インセンティブの低下は、ベーシックインカムという制度を成り立たなくさせます。
勤労者の減少が税収の減少につながるからです。現在の日本政府の歳入は、約17%が所得税、約10%が法人税、約18%が消費税です。

ベーシックインカムでまったく働かないという人が増えてしまうと、所得税の課税所得がそれだけなくなってしまいます。
一部の働いている労働者が高い所得税を負担し、働かない人たちは一部の納税者の存在によって支えられるという構造になるかもしれません。
ベーシックインカムのシステム自体が、矛盾をかかえているとも言えるのです。

それでも導入するべき理由

しかし、それでも世界の動向は導入へと舵を切り始めているように見えます。
時代の流れから、ベーシックインカムは必ず必要になってくるからです。
時代の流れとは、労働市場・労働形態の変化、労働という行為の意味の変化です。

「労働」は、4象限に分けて考えることができます。

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縦軸で下を単純労働、上を高度な労働、横軸で左を肉体労働、右を知識労働に分けたマトリクスを思い浮かべてみてください。

左下の「単純な肉体労働」は、すでに多くの生産設備や産業ロボットに置き換わっていますし、左上の「高度な肉体労働」は、3D プリンタや繊細な動作、高精度なセンサーを持ったロボットに置き換わりつつあります。

また、右下の「単純な知識労働」は、たとえばコールセンターの対応、経理などのバックオフィスの業務ですが、これもAI の発達で置き換わりつつあります。

つまり、人間がしなければならない労働は、右上の「高度な知識労働」に集約されていくのです。

高度な知識労働への集約は、マイナスに捉えれば人間の仕事が圧迫されるということになりますが、プラスに捉えれば人間が働く必要がなくなっていく、ということでもあります。

人間の歴史を振り返ると、1人の王を共同体で支える原始共同体から、貴族階級を国民が支える古代や中世の国家、そして国民の多くが資本家でもあり労働者でもある近代社会へと移行してきています。

社会はとうとう、多くの人間の生活がAIによって支えられる、働く必要のない社会へと変化しているのかもしれません。

そのような社会が実現すれば、労働は生活するうえで必ずしも必要なものではなくなり、社会貢献、自己実現、芸術活動など、より高度な目的へと変化していくのではないでしょうか。

ベーシックインカムは現在の社会制度のうえでは、労働インセンティブの問題、財源の問題など、まだ解決しなければならない課題が山積みです。

しかし、多くの人が高度な知識労働を行い、社会の発展に直接的に貢献するようになる、労働の意味が変化した社会では、ベーシックインカムの導入が労働インセンティブを下げる要因にはならないかもしれません。

また、増税は生活を圧迫することから現代社会では敬遠されますが、ベーシックインカムの導入で生活は保障されるため、これまで以上に所得税率などを高くすることも可能で、財源の問題も解決できるかもしれません。

労働の意味が変化した社会では、生活のためではなく自分のため、社会のために働くことが当たり前になるでしょう。
そのような社会を実現し循環させていくためには、ベーシックインカムは最適な制度であると考えられます。
導入には、大幅な制度の変革と国民の意識の変化が必要ですが、そのためにまずは実験的に導入してみることも必要ではないでしょうか。

Image Credit: uniquedesign52 via PIXABAY

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