会社を地方へ移転させると税制上の優遇措置を受けることができる「地方拠点強化税制」とは

「地方創生」を目的に新たにはじまった税制が「地方拠点強化税制」です。本社機能を地方に移転・拡充することで、税制上の優遇措置を受けることができる制度です。2015年からはじまったこの制度は、どのように活用できるのでしょうか。

地方と都市部で二極化

「地方拠点強化税制」とは、地方創生と企業の活力向上を目的として、内閣府・経済産業省・厚生労働省によって導入された政策で、地方に拠点を移転・拡充させた企業は税制面でメリットが享受できるという制度です。政策導入の背景には、地方の人口減少問題とそれに伴う地方財政の悪化があります。

総務省の2014年の調査では、日本の40の道府県で2013年からの1年間で人口が減少していることが分かりました。少子高齢化の進展による人口の自然現象もありますが、問題は仕事を求めて地方から都市へと人口が流入していることです。地方の人口減は過去50年で最多で、問題は深刻になり続けています。

このような背景から、政府は地方の人口減少・財政悪化を食い止め、地方を元気にするために「地方創生」の政策を導入しています。そのひとつが「地方拠点強化税制」です。この政策では、地方に企業の本社機能を移転させることで、雇用の増大だけでなく、地方の税収の拡大にもつなげることが目指されています。

それでは「地方拠点強化税制」とはどのような制度なのでしょうか。どのように活用することができるのでしょうか。

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制度適用の条件

地方拠点強化税制は、本社機能を移転・拡充させれば無条件で優遇措置が適用されるわけでは、ありません。以下のような条件があります。

1. 移転・拡充先都道府県の「認定地域再生計画」に適合する
2. 本社機能において従業員が10人、中小企業ならば5人以上増加する。移転型ならば過半数が東京からの移転であること
3. 円滑・確実に実施される
4. 事前に「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」を作成し、移転先都道府県に申請していること

つまり、地方自治体の制度と適用しており、事前に計画を作成・申請する必要はありますが、それ以外は人数の面のみ条件があるということです。この条件をクリアした場合に受けることができる優遇措置は以下のものです。

優遇措置

1. 「特定業務施設」の新設・増設に際して負担した費用にかかる法人税の「特別償却」もしくは「税額控除」のいずれかの適用
2. 「特定業務施設」において新たに雇用した従業員にかかる法人税の税額控除
3. 当該事業の実施のために調達した借り入れなどに対しての、中小企業基盤整備機構による債務保証
4. 事業税、不動産取得税、固定資産税について、地方税の不均一課税の適用(できない場合もある)

ここでの「特定業務施設」とは本社機能のことです。優遇措置の適用にあたっては「事務所」「研究所」「研修所」のいずれかを、地方に新たに移転・拡充することが求められます。

「拡充型」と「移転型」

実際には経営者の立場では、この制度がどれほど使えるものなのか、が重要になると思います。この税制には「拡充型」と「移転型」があり、それぞれで適用される条件・優遇措置が異なります。

拡充型

拡充型は、東京23区以外に本社を置く企業が、地方都市に移転した場合が対象になりますが、地方に本社を置く企業がその本社を増築した場合にも適用されます。

拡充型で適用される優遇措置のひとつは「オフィス減税」です。これは拡充にあたって取得した建物の価額に対して、特別償却15%もしくは税額控除4%を、当期法人税額の20%を上限に活用することができます。適用される建物は中小企業の場合で1000万円以上となりますので、一般的な研究所・研修所や事務所を賃貸ではなく建設したり、購入したりすれば1000万円は軽く超えるはずです。つまり多くのケースで適用されると考えていいでしょう。たとえば2000万円を特定業務施設に投資した場合、その4%の80万円を税額控除することができます。税額控除とは支払う法人税を算出したあとに、そこから直接差し引くことができるものですので、法人税が実際に80万円分安くなるのです。

もうひとつが「雇用促進税制」です。雇用促進税制では、特定業務施設で当期増加雇用者に対して、会社全体の雇用者の増加率が10%以上の場合「1人あたり50万円」が税額控除、10%未満の場合は「1人当たり20万円」が税額控除されるという制度です。つまり本社機能を拡充した場合に、そのオフィスで新たに雇用した従業員人数が条件をクリアしていれば、1人あたり20万円もしくは50万円を税額控除することができるということです。雇用保険の一般被保険者の数が2人以上(中小企業の場合)増加しており、その適用年度中に事業主都合による離職者がいないなどの適用条件があります。オフィス減税と合わせて、最大で当期法人税学等の30%までを税額控除することができます。

たとえば従業員が15人の法人で、地方に拡充したオフィスで新たに5人雇用した場合、法人全体の10%以上雇用者が増加しているため、その都市の法人税負担額が5人×50万円=250万円も控除することができます。

移転型

移転型では「東京23区から地方へ本社機能を移転」させた場合のみ、適用されるものです。拡充型よりもさらに有利な税制面での優遇措置を受けることができます。

移転型も拡充型と同じく「オフィス減税」と「雇用促進税制」があります。オフィス減税では、移転に伴って取得した建物などに対して、特別償却25%もしくは税額控除7%を適用することができます。税額控除は当期法人税額の20%までが上限です。「雇用促進税制」は、移転に伴って移転先の業務施設における当期増加雇用者1人あたり、初年度のみ、50万円もしくは20万円を税額控除することができます。さらに23区からの移転者を含めた当期増加雇用者1人あたり、50万円を最大3年間継続して税額控除することができます。

たとえば、当期増加雇用者全体が10名、移転者が5名いた場合

移転者:5名×30万円×3年間=総額450万円
当期増加雇用者全体:10名×50万円=500万円

となり、1年目は総額500万円の税額控除、2年目、3年目は150万円ずつの税額控除、すべてを合計すると950万円もの納税額を減額することができるのです。ただし初年度は1人80万円まで、3年間では1人最大140万円までと上限が設定されています。また、雇用促進減税とオフィス減税を合わせて当期法人税額の30%までという上限も設定されています。

この税制では、拡充型・移転型共に法人税額の最大30%までの節税ができることになっていますので、使いこなすことでかなりの節税対策とすることができます。そう簡単に本社機能を移転・拡充することなどできない、という企業が多いという声もあります。しかし、業務内容によっては必ずしも東京などの都市部である必要はないのではないでしょうか。

たとえばウェブ関連企業やデザイン会社などは、リモートワークでも充分仕事を進めることができますし、納品作業や打ち合わせもネット上で完結することができます。顔を合わせる必要があればそのときだけ移動すればいいことで、いつも都市部にいる必要はありません。自然豊かで仕事環境がよく、オフィスの維持費も安い地方部への移転・拡充のメリットは非常に大きいです。今回の税制の導入をきっかけに、地方へ移動する会社は増えるかもしれません。

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