自由時間を増やすだけでは、ワーク・ライフ・バランスは実現できない

米国の労働状況を考察したIntuit projectsは、2020年までに米国の4割を超える労働力がフリーランスになるだろうと予測しています。また2020年までに民間の労働人口の半分が独立すると結論づけする他の調査もあります。もしこれが本当なら、何百万人もの米国人がこれからの4年間にフリーランスに移行することになります。「一人のフリーランサーが複数の企業をサポートする労働形態」が、未来のワークスタイルになろうとしているのは、どうやら現実のことのようです。

働く個人にとっても、それがより快適な働き方であることに疑いの余地はありません。幸せな労働者はよい仕事をする、という観点から見れば、これで生産性の向上も期待できるわけです。しかし、この傾向を個人の幸せだけでなく、もっと大きな社会の視点から見た場合、すべてが本当にwin winなのでしょうか。
1月8日付けのニューヨークタイムズ誌の「You Don’t Need More Free Time(あなたに自由時間はもういらない)」という記事の中で、スタンフォード大学社会学のクリストバル・ヤング助教授が、この社会的傾向に疑問を投げかけています。

記事の中で扱われているのは、西洋社会の中でも労働時間の長い米国人が、ライフ・ワークバランスをうまく取れずにいる姿です。この場合、人々が考えるは「もう少し自由時間があれば、自分はもっとハッピーになれるはずだ」ということです。これに対してヤング助教授は、自らの調査結果を上げて、解決はそう簡単ではないと説いています。ライフ・ワークバランスが取れないのは、自由時間の不足だけではなく、自由時間から満足を得るためには、その時間が愛する人と共有できるものでなければならないからだというのです。

この調査でヤング助教授のグループは50万人を対象に、数週間日々の時間を区切って、人々の感情の移り変わりを調べました。その結果、2つのことが分かりました。

1つは、人々の幸福感が1週間の労働時間と密接に関係していることです。不安、ストレス、笑いなどの測定では、人々の幸福感は月曜日から木曜日までが最低。金曜日に上昇し始め、土日にピークを迎えます。私たちは本当の意味で「週末のために生きている」のです。

もう1つの驚くべき発見は、失業者もこの感情パターンに則しているということです。失業者の感情も、週末に向けて肯定的に高まり、月曜日には再び下降するのだそうです。
週末に仕事から息抜きできる労働者については、この結果は容易に理解できますが、失業者にとって週末がそれほど大切なのはなぜでしょう。これを理解するには、時間は「共有されるもの」であることに注目する必要があるとヤング助教授は言います。「コンピュータ」のように、その価値はどれだけ多くの人がそれを持っているかにかかわってきます。あなたしかコンピュータを持っていなければ、Facebookも使えないでしょう。

自由時間も「共有されるもの」なので、多くの人が同時に休暇をとる週末に価値が生まれます。失業者もウィークデーは職探しや家事をして、週末には家族との時間をもつことで、働いている人たちとシンクロした過ごし方をしているのです。
つまり、単に自由時間を増やすことでは、ライフ・ワークバランスの問題は解決しません。人々が必要としているのは「いっしょの時間」だからです。

そこでヤング助教授は提唱します。「この数年間多くの職場で、個々の仕事のスケジュールをより柔軟にする取り組みが行われています。それが多くの利点を持っていることに疑いはありません。しかし、この取り組みの欠点は、それが週末のような社会的時間から、さらに私たちを遠ざけるのではないかということです。最終的にはそれが人と人の繋がりを減らして、ボウリングアローンのような問題に結びつけるのではないかと私は懸念します。むしろ、仕事のための時間と生活のための時間の標準化が解決策なのではないでしょうか。」
ここで言われる「ボウリングアローン‐米国社会資本の衰退」は2000年に出た、ハーバード大学教授ロバート・プトナムの著作で、20世紀後半の米国社会資本の減少を扱っています。プトナム教授は、家族の絆、隣人関係などの後退が、人々の社会への関与を減らし、社会の健康を脅かして、米国社会を統一している社会資本が崩壊することを警告しています。
第1章の終わりに登場する33歳の白人会計士は、64歳のアフリカ系米国人の年金受給者に、自分の肝臓を寄贈します。二人が知り合ったのはボウリングリーグででしたが、この本の出た2000年現在、米国人は依然としてボウリングをしているものの、リーグはすでに存在していません。
「社会資本」とは人々の間の社会的関係です。プトナム教授は、社会的な絆が人々に個人的な利益や社会的影響を与えることを強調して、人々が他人を信頼し、助け合う社会資本のあるコミュニティは健康であるとしています。

このような観点から見た場合、現実にワークスタイルが個人化され、誰もがいつでもどこからでも働くことができる社会になった時、上記のような懸念に私たちはどう応えていけばいいでしょうか。一度考えてみる必要があるかもしれません。

参考
http://www.nytimes.com/2016/01/10/opinion/sunday/you-dont-need-more-free-time.html

Image credit: Benjamin Combs via unsplash

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