イギリスで話題のコワーキングオフィス的な新しいプライベートクラブ

ジェントルマンズクラブからプライベートメンバーズクラブへの移行
典型的なプライベートメンバーズクラブというと、いわゆるヴィクトリア朝に生まれたジェントルマンズクラブがすぐ思いつきます。
貴族、政治家、大富豪等当時の紳士達が同様な階級そして政治的見解をもった会員達と私的な環境で交遊を深める男性のみの場所。
それがメンバーズクラブでした。
国を左右する重要な政治の交渉がこうしたクラブで行われ、ジェントルマンズクラブはイギリスの政治そして社会背景において重要な存在であり、クラブに所属することがステイタスと成功のバローメーターだったのです。

20世紀後半になるとこうした伝統的なジェントルマンズクラブの人気そして政治的影響は薄まり、80年代にはThe Groucho Clubを筆頭にメディア系のプライベートクラブが次々と誕生しました。
クラブは社交そしてリクリエーションの場所、メンバーである有名俳優やミュージシャンがプレスの目を気にせず、羽目を外してパーティーできる場所に変化したのです。
階級に関係なく、独自の分野で成功したか、そして有名であるかどうかが、メンバーとして選択されるにあたっての条件になりました。

仕事中心のメンバーズクラブ

こうした遊び中心のメンバーズクラブは現在もたくさんあるのですが、最近仕事に焦点を置いたプライベートクラブが次々と誕生しています。
多くの若いフリーランサーや起業家がカフェやコワーキングオフィスを仕事のベースにするように、ビジネスエリート達が高級バーやホテルのロビーをその日限りのオフィスとして使うのが普通になりつつあります。

The Clubhouseの創立者であるAdam Blaskey氏はこう語ります。
「私がThe Clubhouseを始めるきっかけは、クライアントとビジネスミーティングを行うにあたって、高級感を持ちしかもプライベートなビジネスの話のできる場所が少ないことに対する不満からうまれました。
高級ホテルのロビーはビジネスらしさに欠けますし、かといってサービスオフィスを一週間借りる必要は私のビジネスにはありません。
私に必要なのは私の会社の最善のイメージを反映した、しかも融通性のある場所だったのです。」

こうした考えをふまえて、Blaskey氏は四年前にプライベートメンバーズクラブThe Clubhouseをオープンしました。
The Clubhouseは社交というよりは仕事の場所であり、ビジネスエリートに必要なフレキシブルなオフィス、ミーティング、イベントそしてラウンジルームを提供する、高級コワーキングオフィスといってもいいでしょう。Blaskey氏のアイディアは大成功で、メンバーの数がこの四年で急上昇。
今年The Clubhouseはより大きな場所に移動し、2つめのクラブもオープンしました。
今後もクラブ数を6-8件までを増やす予定です。

関連記事: 働くだけの概念を超えたロンドンのコワーキングオフィス

プライベートメンバーの変化

ロンドンのメンバーズクラブシーンの第一人者であるブライアン・クリヴァズ氏の最新のプロジェクトであるDevonshire Clubは「ウェストエンドの贅沢さと魅力をイーストエンドの豪気さと結びつけた」新しいタイプのプライベートクラブとして年内にオープン予定。

プライベートメンバーズクラブは伝統的にMayfairを中心にウェストエンドに所在していていたのですが、Devonshire Clubはシティー(ロンドンの金融街)の東端でありテクノロジー企業の中心地であるオールドストリートにも近い、リバプールストリートに所在します。
これはシティーの銀行で働く金融業エリートだけでなく、イーストエンドのテクノロジー又はメディア系の起業家を対象にしているからでしょう。

「シティーは変化しました。以前は男性が大半でしたが今では40%のシティー労働者は女性です。こういうことをふまえて Devonshire Clubでは、女性重役がオフィスに向かう途中にクラブで髪を整え,取締役会にスタイリッシュな姿で出席することができるように、ヘアスタイリングバーを備えました。」とクリヴァズ氏。

経済危機以降のリストラとモバイルテクノロジーの成長がこうした変化の大きな分岐点だといってもよいでしょう。
将来の大起業家にとって必要な物は固定したオフィスや同僚ではなく、iPadとフラットホワイト。

関連記事: フラットホワイトエコノミー ヒップスターが英国経済の発展の鍵

そして創造的なビジネスアイディアを交換し、一緒に事業を行うことのできる相手と会うことのできるオープンオフィス。
プライベートメンバーズクラブはエリート起業家にとってのコワーキングオフィスの役目を果たすようになり、そして遊びと仕事の一体化というトレンドが新たなプライベートクラブの増加を焚き付けていると言ってもいいでしょう。

プライベートメンバーズクラブ市場での新たな競争

古株のプライベートメンバーズクラブもこうしたビジネスエリートの新たなニーズに対応するため、ビジネス中心のクラブを次々と開きだしました。
Home HouseはNew Cavendish Clubを買い取り、メンバーのためのオフィススペースとして使用する予定。
世界17カ所にクラブハウスを持つSoho HouseはSoho WorksをShoreditch House内に設立し、クラブメンバーでなくても月々350ポンドでSoho Worksの全設備を24/7使うことが可能です。

アメリカのプライベートメンバーズクラブNeueHouseもこのマーケットに参入しました。
会員になると、テームズ川を見下ろすAdelphi Buildingで「ワークスペース、体験そして個人的なサービスを楽しみ、新たなアイディアと仕事関係を育てることのできる」との触れ込み。
通常のメンバーズクラブの設備だけでなく、放送スタジオ、パフォーマンススペースそして花屋も備え付けるとのこと。

さらにはプライベートメンバーズクラブのビジネスとは全く関係のないKPMGでさえ自身のクラブをメンバーズクラブのメッカであるMayfairに作る計画を発表しました。
これはロンドン東部のオフィスを訪ねることを望まないクライアントをもてなすためですが、KPMGの社員の付き添いなしにはクラブに入れないことから、クライアントの設備の使用を接待費と国税庁に見なされないという利点も設立の理由の重要点です。

「ロンドンは10年前にくらべてずっと起業家的な社会に変化しました。
経済の不安定な状況が続く中、起業家たちが自身の会社のオフィスの賃貸に大金を使うことを望まないのは当然でしょう。」とビジネス開発コンサルタントのMarcus Watson氏。

経済がグローバル化した中、世界をまたにかけるビジネスエリート達はノートパソコン、WiFiそしてビジネスを行う場所さえあればどこでも仕事ができるわけです。
ロンドンのオフィス賃貸市場は高騰するなか、プライベートメンバーズクラブはビジネスエリートのニーズを満たすことで、その人気は今後も上昇することと思われます。

関連記事: ロンドンで増加するリモートワークとコワーキングオフィス

参考
http://www.theclubhouselondon.com/
http://www.devonshire.club/
http://homehouse.co.uk/
http://sohoworks.com/
http://neuehouse.com/location/london/

SPONCER
Related Article