英国EU離脱をスペインはどう見ている?

世界中を震撼させた、英国のEU離脱決定。
日本でも連日報道されているこのニュース、EU内では国によってそのとらえ方も様々です。
そこで日本ではあまり報道されていない、私の住んでいるスペインでの英国のEU離脱に対する見方を紹介したいと思います。

英国の結果が反面教師の効果となったスペイン出直し総選挙

英国でのEU離脱を問う国民投票の結果が出た直後の6月26日、スペインでは出直し総選挙が行われました。
前評判では、与党の国民党(日本の自民党にあたります)が議席を減らし、最近飛ぶ鳥を落とす勢いのある新興政党の急進左派ポデモスが第2党に躍進するのでは、とスペイン内外で報道されていました。
ポデモスは、EUからの離脱派ではありませんが、EUの緊縮政策には反対の立場です。
しかし開票結果は、大方の予想を裏切るものでした。
大幅に議席を増やしたのは国民党で、ポデモスにとっては残念な結果となりました。
英国のEU離脱決定が、ノリや流行りで投票しやすいスペイン人に、今一度真剣に国の未来を考えるという機会を与えることとなり、堅実な道を選択という結果に結び付きました。

実際スペインへの影響は?

ところで、選挙には、好影響をあたえた英国のEU離脱ですが、今後のスペインにどのような影響を与えるでしょうか。
スペイン人にとって一番の関心は、失業率と、物価、特に住居費の上昇に関してでしょう。
失業率に関しては、英国で職を失ったスペイン人が母国に戻ること、そしてスペイン人が新たに英国で職を求めることが難しくなることによって、一時的に上昇するおそれがあります。
しかし、英国で鍛えられたビジネススキルを持った有能なスペイン人が母国に戻ってくることは、スペイン全体のビジネススキルの向上という点からみるとメリットです。

スペインの不動産は他の欧州諸国にとって投資の対象として大変人気です。
しかしそれが住居費が年々上昇する一因となっていることも事実です。
今後、EU離脱後税制上の優遇処置がなくなる英国からの投資は減少すると予測されるので、住居費の上昇に歯止めがかかるかもしれません。

スペインはワイン、オリーブオイル、果物類など食品、革製品など、多くのものをイギリスへ輸出しています。
これらのスペイン産の商品にどれくらいの関税をかけることになるのか、心配なところです。
また若者にとっては英国への留学が難しくなる可能性があります。
その他金融市場の不安定など日本を含め世界中が受けるだろう影響は、当然スペインでもあります。

しかし実際、英国・スペイン間の各分野の条約がどのように結ばれるのかは、まったく未知数です。
そのため正確なスペインへの影響は、もう少し先にならないとわからないというのが、正直なところです。

実際困るのはスペイン人より、スペイン在住英国人?

指先のちょっとした切り傷をまるで腕が折れたかのように痛がるように、ささいな不満を何倍にもしてアピールするのがスペイン人です。
実際日本をはじめ海外でのスペインに関する報道を見ると、スペインのそのような誇張されたネガティブな部分を信じてしまっているらしきものをよく見受けます。
スペイン人は楽観的です。またしたたかです。
予想されるスペインへの影響を前項でお話ししましたが、実際のスペイン人の暮らしには一時的なものは別として、長期的な影響はあまりないのではないかという声もよく聞きます。
それは、英国がEUの中で特別にスペインと結びつきが強いということもないためだと考えられます。
むしろ困るのは、スペイン在住の英国人ではないでしょうか。
私の暮らすマヨルカ島在住の知人の英国人が冗談っぽく言っていました。
「もう一層のこと、スペイン国籍を取得しようかな、ヨーロッパ中自由にいどうできるし。」
定年退職した彼は、住民票は英国に置いたまま、購入したマヨルカ島の家で一年のほとんどを過ごしています。
スペインの住宅関係の税金は優遇処置があり、病気になれば欧州健康保険が使えます。
そのようなEUの一員としての恩恵をうけながら、彼は気候のいいマヨルカでの老後の暮らしを楽しんでいます。
しかしEU離脱後、このような特権は彼からはく奪されます。
英国人の知人の言葉はあながち冗談でもないのかもしれません。

スペイン人の本音は勝手にしたら?

熱しやすく冷めやすいスペイン人にとって、今は英国のEU離脱はまさに旬の話題です。
しかし、なんとなく他人事という感じがスペイン現地の報道をみていても感じられます。
もともと、英国はポンド通貨でユーロ通貨には加入していませんでした。
また国境のコントロールも欧州人ならほぼフリーパスの他のEU諸国と比べると厳しく、何となく親しみが感じられません。
そのため、スペイン人にとって英国は他のEU諸国と比べると多少距離感のある国です。
そんなもともと距離感があった国がEUから離脱するといっているのだから、スペイン人の実際のところの本音は「離脱したいならどうそ。勝手にしたら」に近いのではないかと考えられます。
また、英国と比べ国力の弱いスペインにとって、EU離脱はあり得ない選択肢です。
そのため、「去る者を追わず」感がスペインには漂っています。

忘れ去られたEUのもう一つの役割

とあるスペイン人が、今回の英国のEU離脱について話していたとき、次のようなことを言っていました。
「昔からヨーロッパでは、ことあるごとに戦争が起こっていた。でも、ここ70年間戦争がおこっていないんだよ。残念なことに英国人はそれを忘れてしまったようだ。」
EUの役割は、通貨統合、モノや人が自由に行き来できるといった、経済面がクローズアップされがちです。
しかし元々は戦争の悲劇を繰り返さないために、軍事力の基本の産業部門を統合しようとして始まった考えを形にしたのがEUです。
平和が保たれているからこそ、経済の繁栄があるのです。
70年の平和の重み、そしてEUのもう一つの役割、スペイン人からあらためて気づかされました。

参考
El País
http://elpais.com/elpais/2016/06/29/opinion/1467221734_646744.html
http://elpais.com/elpais/2016/06/29/opinion/1467217213_660499.html
http://elpais.com/elpais/2016/06/28/opinion/1467138323_672597.html
http://elpais.com/elpais/2016/06/28/opinion/1467136306_236450.html
http://www.euinjapan.jp/union/what-is-history/

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