フリーランス(個人事業主)になると、会社員時代とは違ったお金に関する考え方が必要になります。
今回はフリーランスの報酬の決め方について、解説します。
フリーランスで必要なお金
会社員からフリーランスになった方は、最初は自分の仕事でどのように報酬を決めたらいいのか分からないものです。
一般的に言えることは、会社員からフリーランスになった方は、自分の報酬を少なく設定してしまうことが多いということです。
会社員の時代は、毎月手取りで20万円や30万円と、決まった額が給与口座に振り込まれます。
そのため、自分一人を雇うのにどれだけのお金がかかっているのか、
1人でどれだけ売り上げれば会社は利益を得ることができるのか、
なんとなくしか分かっていない方が多いのではないでしょうか。
そこで、まずはフリーランスで利益を得るにはどれだけ売り上げが必要になるのか、という点からアプローチしてみましょう。
まず、フリーランス(個人事業主)の場合、これまで会社が負担してくれていた費用のうち、自分で負担しなければならなくなるものが、大きく3つあります。
「必要経費」「社会保険料」「退職金」です。
必要経費
まず「必要経費」は、会社員時代は基本的にすべて会社が負担してくれていたものです。
フリーランスになれば、パソコンやソフトウェア、通信料、光熱費、事務所の賃料、営業のための交際費、移動するときの交通費などすべて自分で負担しなければなりません。
たとえ自分の家からほぼ出ずにできるような仕事であっても、光熱費や通信料はかかるわけです。
まずは、自分の仕事にこれらの必要経費がどれだけかかるのか、おおざっぱにでも計算して毎月の負担額を算出しておきましょう。
社会保険料
次に「社会保険料」です。
社会保険には「年金保険」「健康保険」「雇用保険」「労災保険」の4つがあります。
重要なのは年金保険と健康保険です。
会社員の場合は、国民年金という公的年金制度の1階部分の上に厚生年金という2階部分があり、この2階部分が会社と自分とで半分ずつ負担する形になっています。
しかし、フリーランス(個人事業主)ならば、そもそも厚生年金に加入することができませんし、かわりに国民年金基金に加入しても、保険料は当然自分で全額負担しなければなりません。
健康保険についても、国民健康保険またはその他の健康保険組合に加入することで、自分で保険料を負担しなければなりません。
退職金
さらに、会社員ならば「退職金」制度があります。
企業年金制度とも言います。
公的年金制度の上にある私的年金として年金制度の3階部分にあたります。
退職金は老後の備えとして利用されることが多いですが、フリーランス(個人事業主)ならばこの退職金部分も自分で備える必要があります。
個人事業主が多く利用する退職金制度として「小規模企業共済」があります。
これは個人事業主や小さな会社の経営者、役員が退職するときのために、共済金を積み立てる制度です。
このような退職金制度に自分で加入して、自分で保険料を支払わなければなりません。
会社員時代は、自分の生活するために必要なお金だけを考えていればよかったのですが、フリーランス(個人事業主)ならば、これらの3つの上に生活費を上乗せした金額が、報酬月額の下限になるでしょう。
おおざっぱに計算すると、年間売り上げが500万円、経費が100万円かかったならば、額面の年収は400万円になりますが、ここから国民年金と社会保険料を差し引き、控除し、さらに所得住民税などの税金を差し引くと、手取りの年収は約260万円になります。
500万円売り上げても毎月21万円少ししか受け取れないのです。
ここからさらに国民年金基金や小規模企業共済の掛金を差し引けば、500万の売り上げでは生活もままならないことが分かります。
会社に負担してもらっていた3つのお金と税金を織り込んだうえで、まずは報酬の下限を決めましょう。
適正な報酬はどうやって決めるか
さて、まずは報酬の下限の設定方法を解説しました。
しかし、それ以上稼がなければ、生活費以上の稼ぎが出ません。
そこで、次に、より稼ぐための報酬の決め方を解説します。
一般的に思いつく方法として、同業の相場から報酬額を決めるという方法があるかと思います。
しかし、結論から言うとこれは間違いです。
順を追って説明しましょう。
そもそも相場が簡単に分かってしまうような仕事はコモディティ化しやすい仕事です。
相場が簡単に分かるほど取引のある仕事ならば、その仕事と同じことをしても同業よりも高い報酬を設定することはできませんし、価格競争に陥ってしまいます。
そこで、同業にはできない付加価値をつけた仕事を作り出すことが、フリーランスには必要不可欠です。
それができなければ、さきほど解説した最低限の報酬すら稼ぎ出すことが難しくなっていくでしょう。
そのため、そもそも相場にあるような仕事をしない、相場があるのならばそれ以上の付加価値をつけて報酬も相場以上にする、という工夫をするべきでしょう。
以上を踏まえたうえで、報酬を決めるためには「時間」から算出することをおすすめします。
自分の仕事にかかる必要経費や保険料、税金を先に計算しておけば、1年にどれだけ売り上げれば、どれだけが手元に残るのか分かります。
そして、自分がこれだけ稼ぎたいという所得額を、年間労働時間で割った額を、自分の「目標時給」とします。
依頼された業務において、どれだけの時間を投入することが見込まれるかを予測できれば、その業務における報酬をざっくり算出することができます。
自分の目標時給が2000円ならば、20時間かかる業務は、2000円×20時間=4万円、といった具合です。
とはいえ、これらの計算方法は自分の必要とする金額からのみ計算しています。
現実的には、取引先からそんな額は出せないと言われることも、もっと低い報酬金額で依頼されることもあるわけです。
そこで交渉が必要になるのですが、この交渉において、ここまで解説した2つのポイントを活用することができるのです。
つまり「相場の設定できない自分だけの付加価値をつけた仕事をすること」と「提示する報酬額を根拠付けることができること」です。
フリーランスは時間が資源です。
自分の仕事の売り上げのうち何割が経費になり、保険料や税金を計算した場合、どれだけの報酬が適正なのかしっかり説明できるようにしておき、その交渉が通るだけの付加価値を設定できることが、フリーランスの報酬決定に必要なポイントなのです。