「有価証券報告書」は、公開している企業に関する情報の宝庫です。
短時間でビジネスの状況を正確に把握するために、その読み方を解説します。
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有価証券報告書の役割
社会人ならば「有価証券報告書」という言葉は聞いたことがあると思います。
しかし、日常的に目を通しているという方は少ないのではないでしょうか。
実はこの有価証券報告書は、これから事業を始めようと考えている方や、すでに独立してフリーランス(個人事業主)や小さな会社経営をしている方でも、ぜひ読むべきものなのです。
なぜ重要なのか、それは「経営分析」に使えるからです。
有価証券報告書とは、投資家向けに業績を発表する必要のある企業が、金融商品取引法に基づいて公開するものです。
発行の主な目的は、その企業に投資する投資家が投資判断を行うことですが、フリーランス(個人事業主)や経営者、これからビジネスをはじめようとしている会社員の方にも、ビジネスに関する魅力的な情報源になります。
たとえば、これから新しくビジネスをはじめようと考えている方は、類似しているビジネスモデルを持つ会社にはどのようなところがあるか調べて、その会社の有価証券報告書を読めば、具体的にどのような事業を行っていて、どの程度の利益を得ることができているのか把握することができます。
さらにどのような投資を行っているのか、財政状態はどうか、キャッシュフローの状況はどうか、自己資本はどの程度か、生産・受注はどのくらいあるのか、細かく情報を見ることができます。
その会社の人に直接聞いても教えてもらえないような情報が、有価証券報告書には盛りだくさんなのです。
まとめると、有価証券報告書は以下のようなケースで使えます。
1. 競合他社の分析
2. 取引先の財務状況などの分析
3. 新規参入するとき
4. 転職や営業活動
有価証券報告書に書かれていること
有価証券報告書には、どのようなことが書かれているのでしょうか。
有価証券報告書はフォーマットが決まっており、どのような企業でも書かれていることは決まっています。
それぞれの項目を簡単に紹介しましょう。
1. 企業の概況
まず、最初の「企業の概況」では、主要経営指標の推移や、会社の沿革、事業内容などが書かれています。
初めてその会社の有価証券報告書を読む場合には、概況から目を通してその会社の全体像をイメージするといいでしょう。
2. 事業の概況
次に「事業の概況」ですが、ここではその会社がどのような事業を行っていて、その事業でどのような業績を上げているのか、どのような課題を持っているか、キャッシュフローの状況はどうか、ということが詳しく書かれています。
ここが、その会社のビジネスの根幹の情報になりますので、有価証券報告書のもっとも重要な部分と言えるでしょう。
あるIT関連企業の有価証券報告書を見てみると、ここに「メディア事業」「ゲーム事業」「インターネット広告事業」などの、それぞれの事業でどの程度利益が出て、どの事業が好調なのか、解説されています。
3. 設備の状況
「設備の状況」では、投資の状況が書かれています。
その会社の最近行った設備投資や、保有している設備の状況などです。
しかし、IT企業などは基本的に自社の設備を持ちませんので、有価証券報告書では項目自体を省略している会社も多いです。
4. 提出会社の状況
「提出会社の状況」は、その会社の資本構成に関する項目です。
発行している株式数や、株主構成などです。
ここは投資家向けの情報としては重要ですが、ビジネスマンにとってはあまり必要ではありませんので、読み飛ばしてもいいでしょう。
5. 経理の状況
「事業の概況」と同じくらい重要なのがこの「経理の状況」の項目です。
ここでは「財務諸表」つまり「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」「貸借対照表」の3つが掲載されています。
この3つが企業の経営分析・財務分析をするうえで非常に重要なものですので、注意して読むようにしましょう。
有価証券報告書を読むうえでのポイント
まとめると、有価証券報告書で重要なのは、2、3、5です。
この3点だけに目を通すのは、慣れれば10分ほどで済みます。
しかし、何の知識もなくいきなり有価証券報告書を読み始めても、分からないかもしれません。
そこで、有価証券報告書の読み方とポイントを解説します。
注目するべきなのは、以下の3点です。
経営指標の変動
1.の企業の概況では、その企業の業績が経営指標で示されます。
売上高や経常利益、総資産といったものはもちろん、自己資本比率(ROE)も記載されます。
時系列で示されるため、それぞれの数字や指標がどの程度変化したかを見ることで、その会社の最近の業績を簡単に把握できます。
売り上げや経常利益は、単純に数字が大きくなっていれば成長していると考えていいでしょう。
しかし、自己資本比率(ROE)が低い、もしくは低くなってきているならば要注意です。
自己資本比率は、資本のうちのどの程度が返済不要の資本か、という比率ですから、自己資本比率が低ければそれだけ返済を要する資本が多いと言うことです。
数年間の推移や、同業他社と比較して、その企業の自己資本比率が悪ければ、行っている事業や経営方針に問題があると考えられます。
財務諸表の数字の比較
3つの財務諸表の読み方に関する基礎知識については、以前の記事でご紹介しましたので、詳しくはそちらをご覧ください。
簡単に説明すると、貸借対照表ではどのように資金を調達してどのようなものにお金を使っているのかを、キャッシュフロー計算書では営業活動・投資活動・財務活動のそれぞれでどの程度現金の動きがあるのかを、損益計算書では売り上げや純利益、営業利益など、何でどれだけの利益を上げることができているのか、損失はどこで出ているのかを見ることができます。
貸借対照表:https://anywher.net/2015/06/balance_sheet/
損益計算書:https://anywher.net/2015/06/financial_statements/
キャッシュフロー計算書:https://anywher.net/2015/06/cash_flow/
事業のリスク・課題
「事業の概況」には、数字ではなく文章で行っている事業の内容やリスク、解決するべき課題が記載されています。
そこで、事業についての詳しい内容を見るためには、ここを読み込む必要があります。
できれば、直近の2年〜3年間の有価証券報告書をチェックすることをおすすめします。