「経営分析」と言うと、フリーランスとして働いている人や小さな会社を経営している人は、ある程度が会社が大きくなってから行なうものと思うかもしれません。
しかし、実はフリーランスや少数で活動している小さな会社でも、仕事の水準を上げてより稼いでいくためには、経営分析を行なうべきです。
そこで、今回はフリーランスのための経営分析を行なう方法について解説します。
まずは過去の業績と比較する
経営分析というと難しそうに感じてしまいますが、フリーランス(個人事業主)でも確定申告をするときに、1年間の収支状況を確認していると思います。
個人事業主にとっての経営分析とは、その延長にあるものと考えていください。
とは言っても、まだ独立して数年で、まともに財務諸表を作っていないという方も多いかもしれません。
そのような方、まずは正確な財務諸表を日頃から作成するところからはじめてください。
財務諸表については以下の記事で詳しく解説しています。
初心者にやさしく解説する「財務諸表」の読み方講座!〜損益計算書編〜
初心者にやさしく解説する「財務諸表」の読み方講座!〜貸借対照表編〜
さて、青色申告の特別控除を受けている事業主ならば、最低でも「損益計算書」と「貸借対照表」は作成していると思います。
経営分析は、これらのデータを材料にしてはじめることになります。
ある程度の規模の企業ならば顧問の税理士や会計士に分析してもらったり、様々な経営指標を元に他業種と比較分析することも可能ですが、個人事業主にとっての経営分析は、まずは「過去の自分の仕事との比較」の作業になります。
経営分析のポイントは一般的な企業と同じく「健全性」「収益性」の2つのポイントです。
経営分析の目的は「事業を潰さないこと」が最低ラインで、「収益性、成長性、健全性をバランスよくレベルアップさせていくこと」を理想とするものになります。
貸借対照表からの分析
自己資本比率を計算する
それでは具体的な分析の方法について解説していきましょう。
まずは貸借対照表を使っての分析です。貸借対照表は大きく二列に分かれた表で、右側が「負債」と「資本」左側が「資産」の項目になっています。
右側が「どのようにしてお金を調達したか」、左側が「調達したお金をどのようにして使ったか」をあらわしています。
貸借対照表から分析するのは「財務面での健全性」です。
さて、手元に貸借対照表を準備してみて、右側を見てください。
そこには金融機関などの他人から調達した資本(負債)と、自分で会社に投入した資本(自己資本)がありますが、これを用いて「自己資本比率」を計算します。
自己資本比率=自己資本÷総資本×100
これで計算されるのは調達した資本のうち、「どの程度が自分で投入した資本なのか」ということで、この比率が高いほど財務面での健全性は高いと言えます。
通常の企業ならば30%以上あれば健全な経営を行なっていると判断されますが、小規模の企業、個人事業ならば50%以上には保っておきたいところです。
継続して事業を行っているのならば、毎年自己資本比率を計算して、前年よりも落ちていないかよくチェックしてみてください。
もしも積極的な投資を行なっていないのに比率が下落していれば、財務の健全性が落ちている可能性があるため、その原因がどこにあるのかを探る必要があるでしょう。
それはあとでご紹介する損益計算書から探っていくことが可能です。
資金繰りを計算する
大きな企業でもたまに「黒字倒産」することがあります。
これは利益は出ているのに、資金の借入と返済のタイミングがズレて返済に行き詰まり、倒産することです。
このようなことを起こさないためには「流動比率」を計算する必要があります。
負債は、1年以内に返済しなければならない「流動負債」とそうでない「固定負債」の2つに分けられます。
また資産は、1年以内に手元に入ってくる「流動資産」とそうでない「固定資産」とに分けられます。
1年以内に入ってくる流動資産が、1年以内に返済する必要のある流動負債よりも大きいことが、財務の健全性を判断するボーダーです。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
流動負債は上記の簡単な計算式で計算できます。
これも毎年計算して、比率が落ちていないか、落ちているならばその原因は何か、毎年分析するようにしましょう。
100%以下ならば、資金繰りに行き詰まっているということで非常に危険です。
小規模の会社や個人事業ならば、150%以上、できれば200%以上あるのが理想です。
100%を超えていれば返済分を差し引いたお金を新しい事業に使ったり、内部留保にすることができます。
つまり資産を殖やすことができるのです。
こうして貸借対照表からは、赤字経営にはなっていないか、資金繰りは健全か、総資産は増加させることができているか、負債は増えていないか、健全性が分かります。
損益計算書からの分析
損益計算書は、年間の売上と経費、そこから算出される利益をあらわした財務諸表の1つです。その事業の営業成績であり、事業の利益が分かります。利益は売上と利益の差額であるため、損益計算書からは収益性を分析することができます。
損益計算書では、利益が5段階に分かれています。
通常の企業ならばすべての利益が経営分析に必要なのですが、クリエイターなどの職でフリーで働いている人にとって重要なのは「営業利益」です。
5つの利益は段階的に計算していくものなので、損益計算書を作成する過程では避けられませんが、実際に分析する段階ではこの2つに注目しましょう。
営業利益:売上から原価(クリエイターならばほぼゼロ)を差し引いた「売上総利益」から、販売費や広告費を差し引いたもので、本業での儲けをあらわす
クリエイター系の仕事ならば、ものを制作するのにほとんど原価はかかりません。
もちろんスキルを修得したり、取材したり、ソフトを購入したりという費用はかかりますが、製品を製作して販売するわけではありません。
それよりも、広告宣伝や人件費、販売するためにかかった費用などにお金がかかるため、収益性を判断する上で重要なのは営業利益です。
営業利益率=営業利益÷売上高
この計算式で営業利益率、つまり本業でどれだけ稼いだかが分かるのです。
これはその年だけ計算したところで意味はなく、毎年どのくらいの比率になっているのか、毎年比率を高めることができているのか、できていないのか、比較することが重要です。
こうして損益計算書からは、その年の仕事で適切に利益を出すことができているか、売上は伸びているのに利益率は下がっているなどの問題は起きていないか、などのその事業の収益性が分かります。
確定申告に使う財務諸表を見ることで、その1年間の事業が適切なものだったのかが分かるのです。
同業種との比較
フリーの仕事の場合は、同業他社との業績の比較は難しいものです。
大きな企業の行なっている事業ならば様々な指標が存在し、データが豊富で比較は容易です。
しかし小規模事業やフリーで行なっている仕事の利益率などは、データが存在しないのです。
しかし、比較する手段もないわけではありません。
フリーのクリエイターの場合、事業の収益性の比較は同業の会社員の給料や勤務時間と比較することができます。
フリーで働いていると、売上は伸びても経費はすべて自分で負担するため、利益で見ると同業の会社員よりも少なくなっている場合があります。
また、勤務時間の規則もなく自由で働けるため、ついつい長時間仕事をしてしまうこともあります。
クリエイターは、仕事をするうえで原価がほとんどかからないかわりに、制作に時間を投入します。
制作だけでなく新規開拓のための営業、取引先との打ち合わせ、その他の雑務など多くの時間を使いますが、それぞれにどれだけ時間を投入したのか、どれによってどれだけ利益をあげることができているのか、「時間」という観点から、同業と比較して収益性を比較することが可能です。
そして企業ならば、中小企業庁の公開している「中小企業実態調査」から、業種別の財務データを入手することができます。
大企業ほどのデータの豊富さはありませんが、比較の参考にはすることができます。専門的な分析が必要ならば、身近な税理士や会計士の方に相談してみましょう。